※今回投稿するものは著しく個人的で、自分自身のための忘備録に過ぎません。
また、製品自体は廃版となっていて、せっかくお読みいただいても何らメリットを望めるものではありません。
LA TERRA のチャレンジスピリッツが生みだした
トライ&エラーの結晶したテント
僕の愛用のテントはLA TERRA ラテラという国産ブランドが出していた
山岳用テント、L-V0202 VET22。
雑誌かムック本の特集で、このテントの写真を見た瞬間、
一目惚れしたといいますか。
ラテラは90年初頭(正確には1989年スタートだったらしい)からゴールトウィンが
地球の3極点(北極点・南極点・エベレストの頂上)を制覇できる国産アウトドアブランドを!
というコンセプトに始めたオリジナルブランドでした。
( ゴールドウインの歩み)
云わば日本版のノースフェイスを目指していたように感じました。
残念ながら、このブランドは2000年初頭には消滅し、
その前の98年のシーズン終了後にテントの在庫がなくなった時点で
販売打ち切りになってしまいました。
最後は在庫処分とばかりにかなりの割引きSALEだったらしく、
定価で購入したのがなんだか口惜しく感じました。
その時点になって鈍感な私もようやく
「ラテラがなくなる?」と感じ始めたのでした。
こうしたラテラブランド末期確か2000年になる頃には
アパレルアイテムだけの販売になっていたように記憶しています。
あの当時はまだまだネット(SNS等)の情報もまだまだ少なかった時代で、
アウトドア用品の情報は雑誌や登山店で店員ら聞くくらいしかありませんでした。
なのでオプションのフライシートやウィンターフライシート(冬用外張り)はもちろん、
テント本体も購入することもできなければ、
破損したって修理を依頼することもできなくなってました。
まるでバック・トゥー・ザ・フューチャーに出てくる
デロリアンのようなテントです。
写真は97年ラテラのカタログより
テントは95年とか96年くらいの発売だと思うのですが、僕が購入した98年当時でも、
まだまだ斬新な新機軸と画期的と思われるような試みもたっぷり盛り込まれてて、
新時代のテントって感じがしました。
いろんな夢や可能性が詰みこまれてました!
具体的には
①ポップなカラーリング!(性能とは関係ないんだけど…)
②メインの防水透湿素材をゴアテックスでなく、DERMIZAXダーミザクスを採用
特許権を持っていたことでずいぶん好き勝手な商売をしてたゴアテックス社
でしたが、日本の化繊メーカー東レさんがゴアテックスに対抗できる
防水透湿素材を開発してくれました!
脱線してしまうけれど、令和になった現在、
防水透湿素材は星の数ほどあるようですが、
防水透湿素材の代名詞ゴアテックスと、このダーミザクスの違いについて。
ゴアテックスは水滴よりも小さく、水蒸気よりも大きな孔がゴアテックス膜(のようなフィルム)
に無数に開いているようです。そのため、雨は遮断するけれど、内部の蒸気は外部に放出してくれる仕組み。
一方、ダーミザクスはフィルムには孔がなく、「無孔質フィルム」で外部の雨をシャットアウト。
マスクロブラウン分子運動によって内部の蒸気は排出されるそうです。
内部の蒸気の排出量はメーカーの発表でそれぞれ異なるようですが、
どちらが多い排出量なんだか実感としては残念ながら判りません。
また、ダーミザクスは無孔質のため、ゴアテックスと違って元の120%くらい伸縮性があるようです。
こうした無孔質の防水透湿素材は、当時marmotマーモットも出していました。
テントに使われるゴアテックス製品は“ナイロン”繊維とペアだったけれど
ラテラのテントで使われていたダーミザクスは“ポリエステル”繊維との
レイヤリングだったので、紫外線による劣化にはそれまでのゴアテックステントより優れていた。
詳しくは『無孔質防水透湿素材 東レの“Darmizax ダーミザクス”』
③このサイズに珍しい2ヶ所の出入り口
メインは通常より大きめなファスナー式ドアパネルで出入りがしやすい。
短辺のフロントパネルめいいっぱいにドアを設けてあります。
(※とは言っても、山岳用テントソロテントサイズとして!であって、
他のツーリング用テントとかファミリーキャンプ向けのテントみたいな出入りのしやすさではありません。
飽くまでソロテントの、短辺に出入口を設けたモデルにしては…ということです)
後部は冬用の吹流し式の口を採用している。机上のプランでは降雪時に威力を発揮するように推測してたんでしょう。
④補強フレーム(左写真)の使用で耐風性アップを図っている
(補強フレームは別売りのオプションパーツでした)
⑤換気をきちんと確保するために、ベンチレータに芯を入れて潰れにくくしてあります
⑥夜間に配慮して反射塗料のロゴを採用しています
他にもフレームスリーブは一方通行の袋とじ式になっていて、
設営はとてもスピーディーにこなせるようになっています。
また、袋とじの末端はフレームの力がかかって破損しやすいのですが、
このテントの場合、袋とじの末端にもグロメットが埋め込まれ補強対策がなされているので破損しにくくなっています。
さまざまな部分に多くの工夫や新しいアイデアが組み込まれているけれど、
明らかにアイデアが裏目に出た欠点もある。
それも含めて見ているだけでも飽きないテントです。
アイデアが裏目に出てしまっていることも・・・
このテントの最大の魅力で、最大の欠点になっているのが、
後部にある吹流し式出入口です。
下の写真のように吹流しのトンネルの丈があまりにも短すぎて、閉じた結び目が円の内側に収まってしまい、
やがて結び目は円の内側に沈みこんできます。
雨が降ってくると、円の中に雨水が溜まってきまして、重みでドンドン沈んできます。
吹流しパネルに溜まった水が、結び目のわずかな隙間を縫うようにして室内に浸水してきます。
どんなにキツく縛っても、雨水は室内にポタポタ漏れてきてしまう。
まるで環境サヨクが重箱の隅をつつくかのように、わずかな隙間を突いて執拗に浸水してきます。
これではどんなに優れた防水透湿素材を使っていても意味がありません。
吹流しの裾があと10cm長く、トンネルを縛る結び目が円の外側に出ていれば、
吹流しに雨水が溜まるようなことはなかったでしょう。
ホントあと10センチだけでも吹流しのトンネル丈が長かったら起こらない悲劇でした。
フィールドで実践的なテストが不十分だったのだのでしょう。
アライテントのベーシックドーム(廃版)の吹流しのトンネルくらい長かったら、
ラテラテントのような悲劇は回避できていた。ラテラはトンネル部分が短すぎた。
トンネルを結んで閉じるとラテラのテントは円の内側に結び目ができてしまい、
アライのベーシックドームは閉じても写真のように円の外側に結び目が出る。
従って雨や雪が溜まってもテント内部に侵入してこない。
愛用者の僕が「どこかにメリットはないのか?」と思い、
降雪時こそ吹流し式の威力が発揮されるのでは?と期待しました。
ところが閉じた吹流し式の円は内部へと凸んでくる。
この円の中に雪はどんどん積もってしまい、
やがてテント内部を圧迫してきました。
悲劇のオプション、補強用ポール
これも実際のフィールドテストを重ねていたら失敗はなかったであろうミステイク。
フレームを1本増やすことで、一種のジオデシック構造的な耐風性能をアップさせる試みです。
この新機軸、確かにテント全体のテンションはUPして風や降雪などによるウォールのブレは少なくなります。
しかし、写真のように床材のボトムシートにも余計なテンションがかかり、
床はめくれ上がってしまってます。
これでは、テント室内が狭くなってしまいます。
そして、本当に強風の時はめくれ上がったボトム部分が風を抱き込んでしまい、
結果、テント全体がひどく不安定な状態となってしまいます。
かつて九州は阿蘇の外輪山の1つ(どこだか忘れましたが…)を旅してた時に
台風の直撃を迎えたことがありました。
すさまじい雨と風・・・。
「今こそ補強用ポールの出番」
とばかりに暴風雨の中で初めて補強ポールをセットしたところ、
逆に余計に風を拾う結果となりました。
山の中での暴風雨は上方向や横方向ばかりではありません。山の下から吹き上げてくるような風もあります。
床がめくれ上がったテントはモロに風を抱え込み、室内にいた私ごと転がりました。
とてもペグと私の体重だけではだけでは支えきれない風を抱え込んでしまったようです。
2回か3回ゴロゴロと転がってから、ようやくテントは止まりました。
本当になんのための補強用ポールか?という大問題でした。
この2点の失敗がある限り、
廃盤になるべくしてなったテントだったのかも知れません。
また同サイズのICIイシイスポーツのゴアライトテントと比較しても、
ラテラテントは収納サイズはデカデカだし、ウエートも重いです。
国内でシングルウォールテントの先鞭をつけたと言っても過言じゃない
ICI石井スポーツオリジナルテント“ゴアライト”
学生時代には憧れのテントだった。
ゴアライトやゴアライズに勝てなかった理由もその辺りかも知れません。
ラテラ贔屓でフォローするならば同じソロサイズでラテラのテントはちょっと大きめ。
ゴアライトやゴアライズの1人用と比較すると、ラテラのテントは1.5人用って言えるくらい大きめなんですけどね。
また、畳んだ状態の収納サイズもポリエステル素材を採用したために、
ゴアライトやゴアライズの倍近くになってしまいます。
けれど、私が一番気に入って長く使ってるテントです。
「ここぞ!」といった縦走などにはほとんど苦楽を共にしてくれたテント。
だいぶヨレヨレになってきてますが、もうすぐ25年経つ今でも立派に現役です!
雨が降ったら、吹流し口の上にミニタープ(旧IBS石井スポーツ/オリジナルULマルチタープ)を張らないとならない、
実に世話のやけるテントなんですけど。
ハードなトレッキングでもないかぎり、世話のやけるテントほど意外と
長い夜の時間を潰すにも面白かったりもします。
愛着って点ではイチバン思い入れのあるテントです。
あと、何年かは頑張ってくれそうなラテラのテント。
アウトドアを再開するにあたって、どうしてもこのテントでBack To The Campしたい!
ということで、エヴァンゲリオンの“人類補完計画”ならぬ
『ラテラ補完計画』が始まってゆくのでした。