「出来ることがあるんだから
思うように出来ないことがあったって
別にいいんじゃないですか?
私はラップ出来る方が
すごいと思いますけど……。
あんな口回らないし……。
そう考えると滑舌良い人っていうか
持って生まれた人しか
出来ないじゃないですか。
デビュー出来る人なんてほんの一握り。
満足出来ないのが普通ですよ。
逆に今完璧に出来たって思う人は
たぶん先がないです」
私には出来ないことだから
彼が羨ましかったし
凄いなと思っていた。
彼の励ましにも
何にもならないとは思うけど
大丈夫だよと
もう少しだけ頑張れと
言いたくて
私なりに伝えたつもりだった。
彼はフッと笑って
「ありがと」
とだけ返すと
満足そうに帰って行ったので
まぁ良かったのかな……?
それから何日か経って
夜一人でケータイをいじっていると
突然着信が来て
画面を見ると
『민윤기』と表示されていた。
ビックリしたけど
「もしもし…?」
と出ると
「あ、シセリさん?
俺。ユンギ」
彼の穏やかな声が聞こえて来て
何故か分かんないけど
なんかホッとした。
「今大丈夫?」
「はい。どうしたんですか?」
「どうってことはないんだけど
デビュー日が公に発表なったから
その報告しようかと思って……。
6月13日…になった」
「とうとうデビューなんですね。
おめでとうございます。
ついに芸能人に仲間入りですね」
彼はデビューを伝えようと
わざわざ電話をくれた。
私は嬉しく思ったけど
彼が芸能人になって
テレビに出るようになって
私が思っていた通りに
関わりがなくなっていくことに
少しだけ
少しだけだけど
寂しさを感じた気がした。
すると
彼は突然驚くことを言い出す。
「その日、予定空いてる?」
「え……?
その日ってデビューの日ですか?」
「そう」
「その日……バイトあります」
「終わってからでも良いんだけど
ちょっとまた飯行かね?」
「その日
バイト終わってから予定があるんで…」
そもそもデビュー日にご飯なんて
行けるんだろうか……
忙しいもんじゃないの?