-彼女目線-
正社員の仕事を探しながら
アルバイトをやって……
そんな平凡な日々に
突然思いもよらないことが起きた。
「いらっしゃいませ~」
夕方パンが少なくなってきた時間帯。
一人で店番をしていると
怪しい格好の長身の男性客が
一人やってきた。
その人はクリームパンを1つだけ持って
レジにやって来る。
あまりこの辺では
見かけないような出で立ちの方だったので
観光客かもしれないしと
とびきりの笑顔を向けてみたけど
その人は帽子を目深に被ったまま
私と目も合わせずに去って行ったので
なんだかガッカリした。
せっかく頑張ったのに………
と一人むくれていると
奥にいたおじさんが
「○○○ちゃん!
そろそろあがっていいよ~」
と声を掛けてくれた。
私は後ろで着替えると
おじさんがいつもくれるパンを持って
裏口から外に出た。
1つ伸びをして
ケータイに連絡がないことを確認すると
自転車に股がって
地面を蹴った。
少し自転車を走らせた所から
先の電柱に人影があることに気づく。
目を向けると
どうやらさっきの無愛想な男性客のようで
なんとなく怖かったので
さっと通りすぎようとした。
すると通りすぎる瞬間に
「お姉さん」
と声を掛けられたような気がして
思わず自転車を止めた。
振り返ると
先程の男性が
電柱の所からこっちを見ている。
やっぱり怖くて
自転車で逃げようとしたら
その男性は帽子を浅く被り直して
「パン屋のお姉さんに一目惚れしました」
と告げた。
聞き覚えのある声……
首を傾けてその人の顔を見ると
見間違えるはずもない
グクだった。