店の中に入ると







「いらっしゃいませ~」








ヌナの声が耳に入ってきた。









その瞬間

僕の体がゾクゾクっとした。








久しぶりに聞いた彼女の声。







ずっと聞きたかった声だった。











僕は目深に被った帽子から
少し様子を伺う。









彼女の姿を見て



生きてる………ホントに良かった…………



泣きそうだった。













彼女はレジで作業をしながら

僕のことをチラチラ見ていた。









気づいたかな……








でも
僕は緊張して
彼女に話しかけられそうもなかった。










とりあえず
パンが美味しそうだったし


手前にあった
クリームパンの袋を1つ手にとると


レジに持って行った。











彼女は
「120円です」

と僕に値段を伝えて





紙袋にパンを入れると




笑顔で渡してきた。










僕は彼女の笑顔に胸がドキドキした。









半年前と変わらない

僕の大好きな可愛らしい笑顔だった。












僕はお金を支払うと

紙袋を持って

そそくさと店を出た。













久しぶりの彼女が

想像以上に可愛くて






僕をドキドキさせてきて






そわそわして

話かけるどころか

目も合わせられなかった。











何やってんだろと反省をしながら


夕方に帰るという彼女を

店の近くで待つことにした。






















少しすると


自転車に乗った女の子が
僕の方へ向かってくるのが見える。







彼女だった。









さっきは帽子を被っていて
分からなかったけど





彼女は髪色が変わって

アッシュグリーンの
お洒落な色の髪をなびかせて

颯爽と自転車をこいでいた。










僕はさらに美しくなった
彼女の姿に息を飲んで

拳を握りしめた。









僕を避けるように
通り過ぎていった彼女に






「お姉さん」

と声を掛ける。











彼女は少し進んだ所で
ブレーキをかけて振り返る。







僕の出で立ちが怪しいからか

彼女はそのまま
自転車で去ろうとしていたので






僕は帽子を浅く被り直しながら

彼女の方へ近づいて行った。



 






「パン屋のお姉さんに一目惚れしました」







 


そう言うと


彼女は首を傾けて
僕の顔を見た。








すると僕に気づいたようで

目を丸くして固まっていた。