彼女の手がかりは
握手会で書いてもらった
彼女の手書きの住所だけ……。
僕はサンウさんに場所を確認して
横浜駅で別れた。
''僕はこの辺りにいますので…。
大丈夫だと思いますが、万が一
ファンに追われるようなことがあれば
すぐ連絡してください''
''分かりました''
僕は帽子とマスクを被り直して
たった一人で歩き出す。
タクシー乗り場でタクシーを拾うと
運転手に住所を伝えて
その場所へ向かった。
その道中
僕は彼女との出逢いを振り返っていた。
サイン会で一目惚れをして
握手会で奇跡の再会を果たし
彼女の実家まで行った。
彼女の連絡先を得て
彼女と仲良くなって
彼女が韓国に来て
僕達の家政婦になって
悲惨な事件があって別れてしまったけど
彼女と過ごした日々は
かけがえのないものだった。
もうこれ程まで好きな人には
二度と出会えない。
そう思えるから
僕は自分の手をぎゅっと握って
彼女が育った町を眺めた。
タクシーの運転手に声を掛けられて
辺りを確認する。
数十メートル先にある家が
彼女の家だったような気がして
「大丈夫です」
支払いをして車を降りた。
その家の所までゆっくり歩いて行くと
表札には彼女の名字が。
ここだ。
僕はコンサートよりも
何よりも緊張してしまって
しばらく表札の前で固まった。
深呼吸でなんとか落ち着かせると
敷地へ足を踏み入れた。
玄関扉のすぐ隣には
チャイムらしき音符ボタンがあったので
それを押してみると
「ピンポーン」
と家の中で音が響き渡っていた。
するとドタドタと
人が走ってくる音がする。
僕は息を飲んだ。
「は~い」
若い感じの声の女性がドアを開けた。