「私……
眼鏡をせずに
生活していた時期があるんです……。
今と違って
外にもそのまま出ていました。
今よりも視力が良かったので
何も掛けずとも問題ありませんでした」
僕は少し驚いた。
彼女は中学の頃からずっと
この地味な格好をしていたんだと
思っていたから……
彼女はずっとこうではなかったんだと
初めて知った。
「それはいつくらいだったの?」
「高校生の時です。
新しくできた友達に
外した方が可愛いよって言われて………。
その頃は私も
お洒落に興味を持ち始めていて
憧れのモデルさんなんかもいたから……。
でも……それが……
悪夢の始まりでした………」
そこまでの話は
普通の女子高生では
よくあるような話だったから
ただ僕の知らない彼女の昔話として
楽しく聞いていた。
しかし
それ以降の話に僕は
衝撃を受けざるを得なかった。
「私は高校2年生の時に
初めて彼氏ができました。
同級生でイケメンで人気もあったから
告白されて戸惑ったんですけど…
友達に背中を押してもらって
付き合ったんです。
最初の頃は普通のカップル……
ていうよりは……
私の初さに
付き合ってもらってた感じでした」
彼女の素顔を見れば
男が寄ってくるのも納得だけど
彼女の知られざる過去に
ここまでだけでも
僕はついていくのがやっとだった。
「付き合って1ヶ月くらいの時……
彼と初めてカラオケに行きました。
それまでの1ヶ月は
彼はすごく優しくて……
一緒に帰ったり
たまに休みの日にごはんに行ったり……
私のまったりしたペースに
彼は合わせてくれました。
でも……カラオケで……
彼は豹変しました………」
彼女は手が震えていた。
「個室に入るやいなや
知らない男の人が2人入ってきて………
私を囲みました。
そして
''お前、日谷中(イルゴグチュン)の
本好きな眼鏡ブスだろ。
知った時には驚いたよ~。
ブスだと思ったら眼鏡の下が…ふふふ
高校デビューなんてしちゃってさ。
調子乗ってんじゃねえよ。
お前は俺たちのおもちゃで十分なんだよ''
彼らの言葉………忘れもしません……
彼らはそう言って私を掴みました。
男3人に押さえ付けられて
制服を剥ぎ取られて……
レイプ………されそうになりました……。
運良く
廊下を通りがかったお店の人が
私が乱暴に遭ってるって気づいてくれて
助けてくれて……
彼らから逃げることが出来ました…」
彼女は悪い意味で
忘れられない記憶として
鮮明に覚えているようで
彼女の口から
次々と出てきた言葉で
当時の状況がよく伝わってきた。
それだけに
僕はかなりのショックを受けた。
彼女を苦しめていたのが
男、そして性犯罪未遂だったなんて……
「後から分かったんですが……
彼が私を貶めるきっかけを作ったのは
高校でできた女友達でした。
その子はたぶん高校デビューをした私を
だんだん目障りだと思うようになって
何らかで知った私の過去を
あの男たちに話したんだと思います…」
僕は胸が痛くなって
何も言えなかった。
「それから私は…
学校に行けなくなりました…」
目を下に向けて
彼女の話を聞いていたから
気づかなかったけど
彼女は静かに涙を流していて
微かな嗚咽が聞こえた時に
僕はハッ とした。
顔を上げると彼女は
溜まっていたものが溢れ出したようで
ぶわーっと涙が流れていた。
「もう………男の人も……女の人も………
現実世界の人が………怖い…………」
涙声で訴える彼女の声を聞き付けたのか
姉が戻ってきて
「どうしたの?…………え……?」
と驚いていた。
姉は彼女の元に駆け寄った。
姉は僕が泣かせたと思って
睨んできたので
「泣かせてないよ」
と言ったけど
この状況に信じてはくれなかった。
でも彼女が
「ホ……ソクさんは………私の話……を………
聞いて…くださった……だけです………」
と言ってくれて
それで疑いは晴れた。
姉は彼女を抱き締めて
落ち着くまで彼女の背中を擦っていた。