今日やるべき仕事が片付いて
明日の朝ごはんの下準備も終わったので
帰る準備をして、玄関へ向かった。
靴を履こうとしていると
背後から静かな足音が聞こえてきて
「ヌナ」
そう呼ばれたから、ビクッとした。
振り向けば
そこにはグクがいた。
「グク………」
「帰るの?」
「うん」
「少し話したいんだけど」
私は彼の目を一瞬見て
気まずくなって反らした。
話すのが怖かった。
何を言われるのか予想がつかない。
しばらくまともに言葉を交わしてないと
余計に怖くなるんだな…
そう思った。
「ごめん…。
私ちょっと疲れてて………
だからまた今度……」
グクは
「そっか……。
お疲れ様。ゆっくり休んで」
とあっさり引き下がった。
「グクもゆっくり休んで」
私はそう言うと
寮を出て行った。
アパートまでの短い帰り道。
私は再び罪悪感に襲われた。
グクの方が疲れてるのに
私の方が疲れた疲れた言っていて
ホント情けない。
それに話したいって
何を話そうとしたんだろう……
他愛もない話?
優しい彼だから
疲れてるだろうに
きっと私の話を
聞いてくれようとするんだろうな…
それとも別れ話だったり……
私はいつでも
その覚悟をしとくべきだった。
いつ捨てられるか分からないのだ。
彼と付き合いたい人なんか
山程いる。
そして彼には選ぶ権利がある。
私が彼の重荷になってる今
言われてもおかしくない。
それを遮ったのだとしたら
悪いことをしたな……と思った。
それとも
私が別れを言うべきなのか…………
でも私には
それが出来なかった。
別れるなら
彼にフラれるべきだ。
そう思っていた。
フラれることのなさそうな彼に
私にフラれるなどという屈辱を
味あわせたくなかった。