キッチンに近づくと


暗闇からふいに現れた僕に
ヌナは驚いて


手に持っている
丸いものを落としそうになっていた。





「…あ………起きちゃったの?
ごめん………うるさかったかな……?」

「全然?
良い匂いしたから起きた。
それ何?」



僕はヌナの手元にあるものを指差した。




「おにぎり。
昨日帰り遅かったし
お腹空かない人もいるかなと思って……

車でも食べられるものにしたの」





彼女の思いやりに
心が暖かくなった。





「美味しそう…。食べたい」

「え?今?」

「うん」




彼女は握りたてのおにぎりに
海苔を巻いて手渡してくれた。




僕はすぐにそれにかぶりつくと

ホッとする味がして
笑みが溢れた。



「うまい……」

「良かった……」




彼女はまたごはんを握りながら
時折目を僕に向けては微笑んだ。







彼女といると何故かすごく落ち着く。



少しだけ……
母のような感じがするからだろうか?






彼女の作ってくれる料理は
母のとは違うのに

何故か懐かしいような
不思議と温かい味がした。











「今日は1日?」



彼女は海苔を巻きながら
僕に問いかけてくる。



「うん。最近忙しくて」

「そうだよね。
ARMYが楽しみにしてるもんね。
無理しないくらいに頑張ってね」








「…今日もさ………帰り遅くなる。
帰ってていいから」



彼女は

「分かった」

と答えると




何故か
僕を見てクスクス笑った。





「なに?」


僕は目をパチクリさせて問いかけると

彼女は僕の口元に手を伸ばしてきて

僕は思わずドキッとした。






すると

彼女はごはん粒をとって

僕に ほらっ と見せてきた。





僕はごはん粒をつけている自分を想像して

一緒になって笑った。