「あの………メンバーの皆さん
私に気を使って
日本語で話してくださって……
でも家でも気を使ったら
疲れちゃうんじゃないかと思って…
だから、私に構わず
韓国語で話してくださいって
言いたくて……。
でも……私韓国語………」
彼女は日本語のことを結構気にしてるけど
たぶんメンバーはそんなに気にしていない。
というか
仕事で早く日本語が話せるようになれば
活動の幅が広がるし
楽になるということを知ってるから
むしろみんな積極的に使ってる気がした。
「仕事の時より全然楽な気遣いだから
心配しなくて大丈夫。
でも一応ヌナのその気持ちは言っとく」
「でも、日本語の練習になるから
良いと思うよ。自然に出来るじゃん?」
「…そう……なのかなぁ……。
でも、私、早く韓国語勉強して
覚えなきゃと思って……」
「えーいいよ覚えなくて」
メンバーの中で
僕が今1番日本語を話せるからこその
特権があった。
それは
彼女と内緒話をしやすいこと。
「僕とコミュニケーションとれてるし」
「え……でも……
メンバーの皆さんともとれないと……」
「僕が間に入ればいいでしょ?」
「でもそれじゃあグクが大変……」
「そんなことないよ。
それに……
あんまりメンバーと仲良くなられても
困るし」
「浮気防止にもなるし
僕たちだけの
秘密のトークもできるでしょ?」
僕が彼女の耳元でそう言うと
赤面して僕から逃げようとしたので
腕を掴んで、彼女を抱き込んだ。
彼女はふいをつかれたのか
僕のされるがままだった。
「あ~~元気出るわ。
ヌナ、よろしくね?」
僕は彼女で充電して
キッチンを出た。
着替えをした後
歯磨きをしていると
玄関の方から物音がしたので
ヌナかなと思って
行ってみた。
するとヌナは帰り支度をして
寮を出る所のようだった。
「帰る?」
「うん。また明日の朝お邪魔します」
「待って。送ってく」
僕は洗面所に急いで戻った。
僕が再び玄関に駆けつけると
彼女は靴を履いて外に出ようとしていた。
「待って待って~」
そう声を掛けると
「送んなくて大丈夫だよ。近いから」
と断られる。
でも彼女を夜道一人で歩かせたくなくて
「ダメダメ」
と言って
スニーカーに足を入れた。
「グク。
私からも約束して欲しい事があるの……」
彼女が深刻そうに言うので
僕は思わず靴紐を結ぶ手を止めた。
「あの…ね……
私と一緒に……外に出ないで欲しくって……」
僕と居たくないってこと?
それを聞いてなんだか腹が立った。
「どういうこと?」
彼女は僕の声に若干怯えたように見えたけど
「あの…やっぱり……
私もグクの1ファンだから…
グクを危険にさらしたくないし……
私と一緒に居る所を撮られてしまったら
ファンは悲しむと思うから………」
彼女らしい優しい心遣いに
苛立ちは一瞬で消え去った。
「ありがとう。
ヌナの約束は守りたい…
だけど僕だってヌナを
危険な目に遭わせたくない」
彼女の気持ちはありがたいけど
男として、彼氏として
こうありたいっていう
僕の気持ちも正直に伝えた。
「でも………
私もそこは譲れない。
サンウさんがわざわざ
近いアパートを見つけてくれたのは
そういうことも
考えてくださってのことだと思うから…」
いつもなら引き下がる彼女だけど
意外にも譲らなかったので驚いた。
「ヌナが譲らないの珍しいね」
「分かった。それは約束する。
でもホントに危ないって思ったら
その約束は破るからね?
ちゃんと自分でも身を守らないと
ダメだからね?」
彼女の意思を優先しつつ
僕が男としての譲れないことも伝えた。
それで彼女も納得してくれたから
そういう約束を交わした。
「じゃ、また明日。おやすみ」
「おやすみなさい」
今までにないやりとりである気がして
ついニヤついてしまう。
「こういうのなんか良い~」
彼女は微笑見ながら
小さく手を振って帰っていった。