急に静かになったダイニングに
少しだけ寂しさを感じながら

私はせっせと片付けに動き回った。




そして
明日の朝ごはんの準備を少ししてから
エプロンを外す。




ダイニングの電気を消して
荷物を持ち玄関に向かった。





玄関まで来てから
ハッとする。

 



無言で帰った方がいいのか
断った方がいいのか…




悩んでいると

歯を磨きながらグクが歩いてきた。






「帰る?」

「うん。また明日の朝お邪魔します」

「待って。送ってく」





グクは小走りで中に戻って行った。


「あ…危ないよ走っちゃ……」


私の小さな声もむなしく
彼はさっさと行ってしまった。






私は彼が来る前にと
靴を履いて外に出ようとした。

グクに迷惑をかけたくない。





すると


「待って待って~」

とグクが口の周りを拭きながら戻ってきた。






「送んなくて大丈夫だよ。近いから」





そうお断りしたんだけど





「ダメダメ」


グクは私の言うことを
聞き入れようとはしなかった。






でも芸能人である彼を
危険にさらすわけにはいかないし


私と2人でいる所を撮られる可能性は
ここだからこそある。





「グク。
私からも約束して欲しい事があるの……」


だからこう切り出した。





私が急に真剣に話始めたので

グクは靴紐を結ぶ手を止めて

私を見上げた。






「あの…ね……
私と一緒に……外に出ないで欲しくって……」




そう言うと

彼は少し怒ったような口調で




「どういうこと?」


と問いかけてくる。






私は彼の表情に少しひるんだ。






「あの…やっぱり……
私もグクの1ファンだから…
グクを危険にさらしたくないし……

私と一緒に居る所を撮られてしまったら
ファンは悲しむと思うから………」




私が恐る恐る思っていることを話すと



グクは立ち上がって
私の頭の上に手を置いた。



彼の表情は和やかだった。






「ありがとう。
ヌナはやっぱり
人を思いやれる良い人だね。

ヌナの約束は守りたい…

だけど僕だってヌナを
危険な目に遭わせたくない」




彼は私よりももっと人を思いやれる人だ。



私の心配をしてくれていることは
嬉しいし
ありがたく受けとりたい気持ちもある。





でも私はそこは譲れなかった。





「でも………
私もそこは譲れない。
サンウさんがわざわざ
近いアパートを見つけてくれたのは
そういうことも
考えてくださってのことだと思うから…」




いつもなら引き下がる所だけれど



グクと付き合うって決めたからには
守りたいことだと思った。