自分の変化に気づいたのは、美容院に行けなくなった時だった。
ロックダウンでずっと閉まっていた美容院の営業が再開されたのに、予約をとれない。「予約が取れない美容院」ではなく、予約を取らなくちゃいけないと思っているのに、予約の連絡ができない。
髪の毛はどんどんぼさぼさになっていく。さらに、外出から遠ざかる。
なぜ予約できないのか。とにかく、人と約束をするのが怖い。「約束を守れなかったらどうしよう」と考えてしまう。
どんどん伸びていく髪の毛を見て、自分で自分がおかしいことに気づいた。前はこんなことはなかった。
いや、ちょっとあった。「この国」に来る前から、美容院に行くのは億劫だった。嫌な経験もあった。でも、行けた。嫌だったけれど、行けていた。
それが、行けなくなっていた。怖くて行けない。
そんな時、ある広告を目にした。
外務省が期間限定で実施していた「海外在留邦人向けオンライン医療相談及び精神カウンセリング・サービス提供事業」
無料で受けられるオンライン医療相談。しかも、日本語で。「メンタルの不調」も対象である。
勇気を出して、力を振り絞って、予約してみた。何しろ、こちらも「人との約束」であるのだから、何日も悩みに悩み、自分で自分の背中を押し続けてどうにか予約することができた。
予約時間が迫り、そわそわが止まらない。何度も予約時間を確認する。
相談が始まり、自分の違和感を話した。医師に、「その状態は普通ではない」こと、「治療が必要な状態」であることを告げられた。涙があふれた。自分の状態が「普通」なのか「普通じゃない」のかがわからなくなっていたことに気づいた。そして、思っていたよりも状況が悪いことも分かった。医療相談であるから、診断はできないのだろう。しかし、病名も教えてもらった。それだけでも、目の前が明るくなった気がした。
医師には治療を受けるようにアドバイスされたが、なかなか難しいことだ。日本語で受診できる精神科は「この国」では見つけられない。
思い切って、パートナーに病名と状況を話した。ショックを受けていた。
日本ではどのような治療を受けるのか調べた。漢方薬が処方されることがあるらしいと分かった。パートナーと、漢方薬が手に入りそうな薬局を巡った。しかし、探しているものは見つからない。感じの良い女性薬剤師に出会った。症状を尋ねられた。漢方薬ではないが、インドのアユールヴェーダのサプリを進められた。半信半疑で購入してみた。夕食後に1錠のみ、布団に入った。いつの間にか朝になっていた。自分が眠れていなかったことに気づいた。
自分の状況に気づいていなかった。しかし、行動を起こしたら、状況が見えてきた。自分が考えすぎ、恐れ過ぎていることも分かった。