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これは手術中の話です。

 

術後数日たって主治医や女房達から聞きました。

 

なにしろ手術室へ入って麻酔されすぐに眠って翌朝意識を回復するまで一切何も覚えていないの

ですから。

 

 

私が手術室へ入ってから何枚もの同意書にサインをさせられ、看護師から注意事項を言われたそう

です。

 

看護師『今から緊急手術が行われますが、10時間以上の大手術になります。もしかすると明日の

未明までかかるかも知れません。手術中に何が起きるか分からないので、いつでも連絡がとれる

ように携帯電話を空けて待合室でお待ちください。』

 

そう言われた女房達は10時間余の間『どうか携帯電話が鳴りませんように。』と祈り続けてくれて

いたそうです。

 

心配する女房に娘が『お父さんが手術室に入る時行って来るねと言ったので、必ず帰って来るよ。

絶対死なないから大丈夫。』と励まし続けたそうです。

 

そして長い祈りの時間が過ぎて、手術室から私が出て来た時は心底ホッとしたそうです。

 

その後主治医の説明があったそうです。

 

主治医『急性のスタンォードA型大動脈解離でした。心臓のそばの上向大動脈から小腸に続く動脈

まで、一気に大動脈が解離を起こしていました。大動脈は三層になっていて、何らかの原因で内側

の層が破れると一気に動脈血が真ん中の層と外側の層の間に流れ込み、一瞬にして動脈が裂ける

のです。その上白乾児さんの場合、一部外側の層まで破れ非常に危険な状態でした。肺動脈のそば

に動脈血の塊があり万一それが破れていれば肺血栓でダメだったろうし、心臓にも動脈血の塊が

付着していてもう少し塊が大きくなっていたら心臓を圧迫して心不全をおこしてダメだったでしょう。

それに腸の近くにも血栓がありました。ただ幸いな事に上向大動脈から出て脳へ続く三本の動脈

には血栓は飛んでいませんでした。もし飛んでいたら脳梗塞を起こしていたでしょう。とにかくとても

危険な状態でした。手術するのが後15分も遅れていたら手遅れになっていたと思います。発症して

から5時間もよく持ちこたえたと思いますよ。だいたい急性のA型大動脈解離の場合、20~30%の方

がその場で亡くなり、その後でも救急車の中で亡くなる人、手術前に亡くなる人、手術中に亡くなる人、

手術後体力がなく亡くなる人等があり生還率一けた台前半の難手術でした。しかし幸い白乾児さん

には体力があったので無事手術は成功しました。あとの回復は本人の体力次第ですね。

それから手術ですが左右の鎖骨の中央からみぞおちの下まで真っ直ぐ胸骨を切り、肋骨を開き心臓

を取り出し人工心臓につなぎ、心臓を停めて外側まで破れていた大動脈を人工血管と取り替え他の解離したところを処置しました。詳しく説明しても理解しにくいでしょうがとにかくこれで一安心です。それから輸血の必要はありませんでした。白乾児さんはよほど血の気が多いのでしょうかね。』

 

それを聞いた女房達はホッとすると同時にゾッとしたと言います。

 

そして主治医の最後の冗談にも笑えなかったと言います。

 

その頃本人は能天気にも昏昏と眠り幽明の境を彷徨っていました。