バンコクでは、日本の商社のニチメンバンコク事務所に、道案内兼通訳を頼んでいました。
ニチメンバンコク事務所の所長は日本人のAさんで、我が社の担当はタイ人スタッフのモントリ君でした。
モントリ君は真面目で日本語が上手なスタッフです。
ある時、仕事が終わって、モントリ君が私達をカフェに連れて行ってくれました。
モントリ君『カフェ(コーヒーではありません。)のブランドは何がいいでか?』
ちなみに、【コーヒーとカンケイナイ】で書いたように、タイでは『コーヒー』と言う言葉は禁句です。
うかつに『コーヒー』と言おうものなら、周りの人達から軽蔑の眼差しで見られます。
私は酒でも何でもブランドには拘泥しません。
飲めればなんでもいいのです。
私『何でもいいです。』
モントリ君『じゃあ、ちょっといいのにしましょう。』
モントリ君は気取った格好でメニューを見ていましたが、おもむろにメニューを指さして、私達の分もオーダーしてくれました。
待つほどもなくカフェ(くどいようですがコーヒーではありません)が来ました。
何やら銀の入れ物に入っています。
何という呼び方をすればいいのか分かりませんが、昔、ちょっと洒落たカレー屋でご飯とカレーが別々に出て来る時に、カレーが入った器に蓋が付いたような入れ物です。(ややこしい説明ですみません。)
ウェイターは銀の器と銀のポットをテーブルの上に置いてサッサと立ち去りました。
この店は客にコーヒーじゃなかった、カフェを淹れさせるつもりでしょうか?
全く横着な店です。
モントリ君はもったいぶつた様子で蓋付きカレー入れのような器の蓋を取り上げて、中の顆粒状のコーヒーじゃなかった、カフェの粉をスプーンですくい上げました。
そして、おもむろにスプーンを自分の鼻に近づけて、カフェの香りを嗅ぎながら『ウーン』と唸って一人で陶酔にひたっています。
私『どげんしたつじゃろか?ちびっと、えすか~。(どうしたのでしょうか?少し怖い。)』と思いながら『モントリ君。どうしたのですか?』と聞きました。
モントリ君『これは輸入品のネスカフェです。高級品だからとても香りがいいのです。飲んだ事がありますか?』
Rさん『ネスカフェなら飲んだこつのあるばってん、高級品のネスカフェちゃ、どげんかつじゃろか?インスタントじゃ、なかつじゃろか?(ネスカフェなら飲んだ事がありますが、高級品のネスカフェとは、どういう物でしょうか?インスタントではないのでしょうか?)』
モントリ君が淹れてくれたネスカフェを飲んでみましたが、やっぱりインスタントです。
味も日本のネスカフェと変わりません。
しかし、メニューを見ると、他のどのブランドのカフェよりも高いのです。
私『なしけんインスタントのネスカフェが、他のブランドのカフェより高かつじゃろか?(なぜインスタントのネスカフェが、他のブランドのカフェよりも高いのでしょうか?)』
Rさんは『ネスカフェは輸入品じゃんけん、がばり関税の高かつじゃろう。(ネスカフェは輸入品だから、とても関税が高いのでしょう。)』と推理しました。
そう言っても、他のブランドのモカやキリマンジャロも輸入品だと思いますが、その関税はどうなっているのでしょう。
Rさんにその事を聞いてみようと思いましたが、モントリ君の陶酔を破るといけないので、聞くのを思いとどまりました。
そして、モントリ君がネスカフェの香りを嗅いで陶酔している姿を見て、当時テレビで放映していたチャールスブロンソンが『ウーン、マンダム』とつぶやくコマーシャルの名場面を思い出しました。
さしずめ、モントリ君演ずるところの、ネスカフェのタイ版コマーシャル『ウーン。ネスカフェ』の名場面でした。