僕らは時間と距離と始まりが怖くて、がんじがらめになっていた。
こたつで交わしたキスと、廊下で被いかぶさって来て重ねたキス。
僕らのキスはこの二回だけ。

あのキスについて話そう。

なぜ僕らはあれからキスを交わさなかったのだろう。
始まりがあると、終わりがあると知っているから、僕らは臆病になってしまった。
私にはわかるの、私たちは結ばれないから。でも、結婚してもあなたの事を想っているよ。運転しながら僕はそういう君の言葉を電話口で聞いた。

太く強かった紐は、10年で一本の今にも切れそうな糸になってしまった。
それでも断ち切れないのにはきっと理由があるんだ。
その細い糸を手繰り寄せて二人抱き合えた時には、あのキスについて話そう。
 
重圧は技術で乗り越える。
徹底的な反復練習で、技術で乗り越える。
圧倒と感動を相手に与えて続けること。
精神的なものはそれがあってこそ生きてくる。
昨日の自分より今日の自分の方が成長していて当たり前。
今日の自分より明日の自分の方が成長していなければ、一日の怠慢。
技術だけあっても、というけれど、技術がなければ精神があっても意味が無い。
昔から言う「正義無き力は無力だが、力なき正義もまた無力」
もがいても光が見えなかったらどうしようと思う。
ただ、もがいてもがいて努力しなければ、光が見える確率は、ゼロだ。
東京に来た意味を考える。

とある一室で張りつめた糸は、まだ切れない。
睨まない、畏れない、威圧しない、媚びない、微笑みながら見つめること。
あまりにも先が見えない高い壁を上るために、東京で暮らしたい。
怯まない、揺るがない、動じない、みんな仲良くしながら、
誰一人として負ける気はないのです。

東京。右手に剣を、左手で握手を。