【サクラ高】
うちの学校は地元でこう呼ばれている。
ある日、そんな桜の木を見上げている子がいた。
その子は、微笑みをうかべながら、桜を見つめていたかと思うと、手を枝に向かって真っすぐ伸ばした。
「え?」
校門の真正面に大きな桜の木があるからだ。
その木は、もう何年も前の卒業記念に植えられたらしい。
木の横に、それを記したものがあるけれど、古びてしまって字がほとんど読めなくなっている。
そんな古い桜の木だけど、今年もしっかり花を咲かせている。
ある日、そんな桜の木を見上げている子がいた。
制服がうちの学校のものと違う。転校生だろうか?
その子は、微笑みをうかべながら、桜を見つめていたかと思うと、手を枝に向かって真っすぐ伸ばした。
しかし、手がほんの少し届かないようで、つま先立ちをしながら、めいっぱい手を伸ばしている。
「何してるの?」
思わず近づき、声をかけた。
愛校心とまではいかないけれど、伝統のある桜の木の枝が折られそうだと思ったからだ。
「え?」
声をかけて初めて他人の存在に気付いたようで、その子は驚いた顔でこちらを見た。
「あの……この木は古いけど大事な木だから」
声をかけた自分自身も、とっさだったので、思いついた言葉をそのまま口に出していた。
もっときちんと言わないと何の事だか分からないと気付いたのは、言った後だった。
「そっか、大事な木なんだ」
「あ……うん、昔からあるし、うちの学校のシンボルっていうか、有名な木だし」
「あ!【サクラ高】って、もしかして、この木の事?」
「うん、そうらしい」
「へー、そうなんだ」
その子は納得して頷くと、また桜の木を見上げて微笑んだ。
そして、目を細めてつぶやいた。
「はじめまして。これからよろしくお願いします」
握手を求めるように、桜の枝に手を伸ばすと、花びらが一枚、ひらひらと舞い落ちた。
「こちらこそ、よろしく」
まだ名前も何も知らないけれど、この子とは仲良くなれそうな気がした。