今回は少し、歯科医師としてのお話をしていきましょう。
日々診療していると、満足そうに帰っていかれる患者さんもいれば、
どこか不満げに帰っていかれる患者さんもいらっしゃいます。
僕らとしてはせっかく来ていただいたので、
患者さん全員に笑顔で帰っていただきたいと思っています。
それでもなかなかうまくはいかず、
不満げな顔で顔色で変えられる方もいらっしゃるのも事実です。
不満げであるというのは、たとえば、
治療が痛かった、思ってた以上に歯が悪かった、
思いのほか時間がかかってしまった…など、
いろんな理由があると思うのですが、
なんにせよ、そこに共通しているのは、
「こんなはずじゃなかった」という思いです。
こんなはずじゃない、と思う原因は、
もともと想定していた内容と、実際の現実のギャップですよね。
そのギャップが大きければ大きいほど、こんなはずじゃない、が大きくなり、不満になる。
もちろん、「こんなはずじゃない」というのは、
ある程度は仕方のないところだと思います。
患者さんがある意味勝手に持っていた思い込みと
実際の現実とのギャップなわけですから、
その差に関してはどうしようもない。
そして僕らができることは、
この差を、いかに「小さくみせるか」ということだけなんです。
あくまで「小さく」「見せる」というところがポイントです。
そのためにできることは何かというと、簡単です。
説明をいかに丁寧にできるか、ということです。
いたってシンプルです。
説明と言ってもいろいろあるので、ここではいくつかしぼってお話します。
人はある程度、自分なりの解釈をもって歯科医院にやってきます。
歯がしみている、だからたぶん虫歯だろう。
歯茎がずきずき痛い、だからたぶん歯槽膿漏だろう。
特に気になることはない、だから検診もすぐに終わるだろう。
ここでは書ききれないほど、いろんな想いと多様の解釈をもってやってこられます。
なのでまずはじめに話を聞く。
話を聞くことは、単なる症状確認のためだけではありません。
症状確認ですましている人が非常に多いのが不思議でならないんですが、
聞くことの本質は、相手が「何をどのように考えているか」を把握するところにあります。
症状確認は二の次でいいと言っても構わない。
だって意識しなくてもしますからね。
そして相手がどのように考えているか=前提条件を確認できれば、
それに対する対応と説明の仕方も変わってきますよね。
すぐ終わると思っていそうなら時間確認をするべきだし
反対に自分がすごく悪いと思っているようなら大丈夫ですと言ってあげるべきだし、
説明とかいいからさっさとしてほしいと思っていそうなら、
無駄なことは話さないべきですよね。
なので、僕はまずは相手の前提条件の確認から始めるようにします。
そして次に説明の部分です。
これは二つのポイントがあって、それは、
「こういう理由でいまこういう状態です」という現状把握の部分と、
「今後こうなっていくでしょうからこうしてください」という未来予報の部分です。
「現状説明」と「未来予報」。
このどちらかでも怠ると、患者さんの満足度は一気に下がります。
つまり、不満度が爆発的に上がってしまう可能性があるんです。
たとえば、神経をとる治療になった場合、どうしても治療後に痛みを感じることがあります。
僕らもなるべく痛みが出ないように気をつけますが、治療の性質上ある程度は仕方がない。
そして大切なのは、痛みが出てしまうことではなく、
「痛みがでる可能性について前もって説明しておく」ということです。
前もった説明があれば、痛みが出ても説明通りだ、と思ってもらえますが、
説明がなければ、痛みがでた不安や、治療に対する不満が出てきます。
しかも一度生まれてしまった不満はどれだけで終わらず、不信感につながっていくんですね。
一度疑ってしまったらそれを払しょくするのは難しく、
後からどんな説明をしても、まさに後の祭り。
それは相手からしたら、ただの言い訳にしか聞こえなくなってしまうんです。
そうなると、どれだけまっとうな治療をしていても、
患者さんにとっては0点の、もしくはマイナスの治療になってしまうんですね。
一昔前の先生、いまでも言われるのかな?
治療技術がしっかりしていれば患者さんはついてきてくれる。と言われます。
それは一側面では正しいでしょう。
でも人がする治療ですからミスもあれば、想定外の状況も起こりうるでしょう。
それに対してどう前もってカバーしておくか。それが何より重要なんですね。
せっかく時間をかけて、患者さんのことを気にかけて治療したのであれば、
患者さんと良好な関係を築きたいじゃないですか。
そのためには、ちゃんと伝える技術も身につけたいところですね。
大学生の頃、
僕は飲食店と塾講師、家庭教師と
3つのアルバイトを掛け持ちしていたことがあります。
大学も後半に入ると講義がびっしり入ってきて
なかなか自由な時間を取りにくくなってきたいたのですが、
もともと人と接する仕事が好きだったため、
それでもあきらめずアルバイトを続けていました。
そもそも歯科医師という仕事はどうしても閉鎖的な仕事であるため、
就職してしまったら外の世界との関わりが少なくなってしまう、
そう思い、学生のうちからできるだけ幅広い分野に関わって、
いろんな人と出会いたいと思い、その一つとしてアルバイトを複数していました。
他にも
喫茶店の店員、ラーメン屋の店員、高級ステーキのホール、コンビニ、
家庭教師は小学生、中学生、高校生すべてしましたし、受験にも携わりました。
いろんなアルバイトを通じていろんなお客さんや仲間と出会いましたし、
多くの学びを得た反面、多くの失敗もしてきました。
今となってはいい思い出ですし、そのすべてが自分の糧になっています。
さて。
こんな感じで僕の大学時代は
サークルよりもアルバイト中心の生活を送っていました。
そんな中、友達の一人がなんとなしに
「金の奴隷だな」なんてことを言ってきたのです。
もともと真面目な性格なのですが、
やや否定的思考の友達だったので、
普段はある程度受け流しながら付き合っていたのですが、
このセリフに関しては比較的考えました。
相手もちょっとした嫌味程度で言ったことなので
いつも通り受け流せばよかったのですが、
今回に関してはなかなかどうしてまじめに受け取ってしまったのです。
アルバイトは、当然お給料というものをいただくカタチになるので、
無給でやれと言われたらしないでしょうし、
いただくものはちゃんといただく、ということはしていました。当たり前ですよね。
それを数多くしていたら「金の奴隷」なのかなと。うーん…。
だからといって給料の金額そのものに関しても
そこまで気にしていなかったのも事実です。
何よりも仕事の内容が楽しかったのもあり、
人と接する立場で、人の喜んだ顔が見れる、
子供が成長していく姿を近くでみられる、
ありがとう、おいしかったよと言ってもらえる。
そんなやりとりが楽しくて、そんなやりとりがうれしくて、
時間がないながらも毎日楽しく過ごしていたのです。
それについて「お金の奴隷」だなと言われてしまう。
「僕は楽しいって言っておきながら本当はお金のことしか考えてなかったんだろうか」
「自分がお客さんのためにっていうのはきれいごとなのかな」
そんなことを考えるようになってしまったのです。
でもいくら考えても答えはでない。
悶々とした気持ちのまま塾講師のアルバイトに向かいました。
そこで教えていた高校2年生の女の子から、
「せんせー、こないだのテスト返ってきたよ!
クラスで3番目だった。このミスしなきゃ満点だったのにー」
ってうれしい報告をもらったんですね。
その時思ったんです。
「やっぱりきれいごとなんかじゃない。
仮にきれいごとだったとしても、相手が喜んでくれることや、
相手が笑顔になってくれること、相手の成長に関われること、
それが楽しいしそのために力を注げると思える気持ちはウソじゃない
だからこれでいいんだと思う。」
そう思えるようになりました。
お金っていうのは確かに生きていくのに必要なものです。
お金がなかったら場合によっては生活が困窮してしまう、
そういうシビアなものです。
でも僕は、そもそもお金の価値っていうのは、
大前提として「感謝と信頼の上に成り立っているもの」だと思っています。
クレジットカードのクレジットはそもそも信頼って意味です。
経済破綻した国の紙幣は紙切れ同然になってしまいます。
それはちょっと前にありましたよね。ジンバブエでしたっけ。
お金は信頼の上に成り立つわけですから、
お給料というのは、ある意味で、
「あなたの技術、能力、に対してこれだけの信頼を置いていますよ」
という意味にもとらえることができるわけです。
…そういう捉え方をすると、僕の時給は900円ですか?
なんて気持ちも湧いてきますがそれはさておき。
自分が仕事に対して真剣に取り組む。
それに対する信頼のあかしを、「お金」というカタチでいただいているんです。
またはいい仕事をしてくれてありがとう、という感謝のカタチだとしてもいいと思います。
そう考えるなら、
僕はもっといろんな人が商売っ気をもっていいと思うんです。
アーティストが自分の作品を作って自分一人で見ていたら、
それは世の中にとってはないのと同じ。
でもその作品を多くの人に聞いてほしいと思い、
世の中の多くの人に手に取ってほしいと思う。
それって自然な気持ちですよね。
それを受け取ってくれた人は、いいものをありがとう、という気持ちで
お金を払ってくれるはずです。
きれいごとに聞こえるかもしれません。
でもそういうものでしょう。
自分が美容院に行ったときとかに、最後にありがとうって言いませんか?
それって、僕らからしたら、いい風に切ってくれてありがとう、って気持ちだし、
美容師さんからしたら、うちに来てくれてありがとう、って気持ちでしょう。
大阪の人が、お釣りをもらうときにありがとうっていうときって、
商売のやりとりがちゃんと最後まで行われてありがとう、
って意味らしいんです。
お金を稼ぎすぎるのはよくないことだ、お金の奴隷だ、なんていうのは、
お金に対して卑しいイメージしかないか、
その人自身がお金に縛られているだけなんだと思います。
お金をたくさんいただける、っていうのは、
多くの人にいいものを届けることができたからだ。
そうとらえることができるようになりました。
お金をいくら稼ぐか、ではなく、
多くの人にいいものをたくさん提供して、結果として多くのお金をいただける。
そういう状態を目指していきたいと思いますし、
多くの人がそういう意識を持ってほしいなって思います。