こんばんは。
僕はいま子供さんを中心に歯科診療をしているのですが、
今の職場に入ったきっかけは前任のドクターの引き継ぎで、
その始めの頃は前途洋々とはいかず、なかなか苦労の毎日でした。
そもそも、その前任の先生っていうのは、院長先生の奥様だったんです。
その歯科医院は、院長先生と奥様の二人で開業された歯科医院で、
院長先生が成人の患者さん、奥様が子供さん。
そんな感じで地域密着型の診療を長年続けてこられてました。
患者さんに感謝され、ときには患者さんに叱咤され、
その繰り返しの中で、少しずつ患者さんに信頼されるようになり、
大規模ではないにしろ、
今のような多くの患者さんに来ていただける医院を築いてこられたのです。
つまり、院長先生はもちろんのこと、
奥様も歯科医院の歴史であり、通っていたお母さんやお子さんにとって、
優しい女の先生、安心できる雰囲気を持たれた先生、だったのです。
僕から見てもとても優しい雰囲気の先生で、大好きな先生の一人です。
そんな奥様ですが、ある夏休みに体調を崩されてしまいました。
夏休みはとくに子供さんが多く、忙しくなる時期です。
ただの疲れでしょ。
はじめはそう思われていたようです。
しかし、念のため病院を受診してみたところ…
先生の病名は「癌」でした。
さすがにその状態で仕事を続けるわけにはいかず、
手術して治療に専念しなければいけない。
しかし、医院に来てくれる子供さんの治療もしないといけない。
奥様は後任を任せられる先生を探し、僕の師匠のところに連絡をいれました。
そのころ、僕は大学病院に勤務しており
土日は休みで比較的時間もあいていたため、
師匠から事情を聴き、
週に1回の非常勤の勤務ということで行くことになったのです。
正直、初めの頃は問題もなくできるだろうと思っていました。
大学で勉強もしていたし、経験もそれなりに積んでいた。
過信とまではいかないですけど、それなりに自信はありました。
でも…
勤務初日、患者さんに挨拶をするのですが、
患者さんやそのお母さんの目線がどこかいぶかしげなのです。
不信感、とまではいかないですが、僕を見る目にどこか違和感を感じるんです。
まぁ、そりゃあそうですよね。
長年支えてこられた奥様から、いきなり新米の若造に変わったわけですから。
「誰だこの人?」「前の女の先生はどこ行ったの??」
こんな視線を痛いほど感じましたし、
こんな言葉をダイレクトにいただきました。
これには、さすがにこたえましたね。
診療ができるできないのハナシではなく、
奥様からの引き継ぎ、そのギャップに一番苦しんだのです。
きっと患者さんも不満だろうな。
もしかしたら別の医院に変わる人もでてくるだろうな。
悩みました。
んー、どうしたものか。
でも案外僕は単純な人間でして、出した答えも単純。
「まぁ、僕は僕だしなぁ。奥さんの変わりはできない。」
「前の先生の流れを壊しすぎず、僕なりのスタンスでやっていこう。」
こんな、当たり前と言えばあたりまえの結論になりました。
前の奥様はとりあえずお休み中なんだから、それはそれで仕方ない。
ここから僕は新しい小児歯科の形を作っていかないといけない。
そのためにできることから始めよう、
そう考えるようにしたのです。
そこでまず僕がしたこと。それは、
「自分がどんな人かを知ってもらうこと」
ここから始めるようにしました。
もちろん、
僕はこういう人間ですよーなんて具体的な解説をするわけじゃありません。
そんなトリセツはどうでもいいですからねw
そうではなくて、
説明の仕方や内容、言葉づかい、治療に対してこうやっていきますっていう考え方、
実際の診療からスタッフとのやりとりまで、すべてのことを通じて、
「自分はこういう人間なんだ」ということを知ってもらうようにしたのです。
どうしても人に好かれようとすると、
相手の顔色ばかり気にしてしまい、「自分らしさ」みたいなものが出てきませんから、
なるべく自分のことを「知ってもらう」にとどめようとしました。
すべての人に好かれるのは不可能だし、
奥様のことを好きでいた人が離れていくのも止められない。
でも、こんな自分だからこそ来てくれる人もいるはずだ、
そう思い、ある種の開き直りをもって、診療に臨むようになりました。
はじめは苦労しましたが、
少しずつ僕のことを信頼してくれる患者さんも増えてきて、
それなりに後を任された仕事をできているんではないかなと思います。
引き継ぎ段階で、
「まえの奥さんと同じようにしよう」
「前の奥さんを好きだった患者さんに好きになってもらおう」
こういうスタンスでいたら、もしかしたらくじけていたかもしれません。
「まずは自分のことを知ってもらおう」
そこから入ったからこそ、
僕は自分のできることに集中できたし、
自分のスタンスを貫くことができたんだと思います。
このスタンスはどんな場面でも役に立つ考え方だと思います。
「好かれたいのなら知ってもらう。知ってもらうには自分のできることに集中する」
このことに真剣に取り組めたことが、
今のいい状態につながっているんじゃないかなと、
いま振り返ってみても思うわけです。