「こんなもんか」
俺はひとり呟いて、鉄棒のテストへと向かう。
「あいつ、お前とフォーム似てないか?」
そんな会話が聞こえたが、似てるんじゃない、全く同じなんだ。
この世界には、スキルと呼ばれる特殊能力がある。
これは必ずしもみんなが持てる能力でなく、種類も無数で同じものは二つとない。どちらかというと、持っていない人の方が多い。
そしてこの俺、朱南高校一年、藤島拓人(ふじしまたくと)は、通称「メモリー」勝手に自分が呼んでいるだけだが、相手の動き、またそのスキルを一つだけ記録して自由に使える、というスキルを持っている。
しかし、動きをコピーしても、自分の能力は上がったりしない。
簡単に言うとものまねだな。
さらに欠点があり、スキルをメモリーすると、相手のスキルの威力、または効果の半分しかコピーできないという、何とも残念な能力になっている。
ただ使い方はいたって簡単。右手と左手の人差し指と親指を使って、四角形を作り、後はビデオ撮影をするように、メモリーしたいものをとるだけ。俺はさっきこのスキルを使って、前のやつの鉄棒の動きをコピーした。
まあ、ちょっとせこいが気にしないで欲しい。おかげでテストは合格できたし。
「おい見ろよ。またスキル組が騒いでるぜ」
その声を聴いて後ろを振り返ると、天高く火柱が上がっている。スキルの実践訓練を行っているらしい。
だいたいの学校は、スキル持ちと、そうでないクラスに分かれている。しかし俺は、そんな差別のような決まりと、危険すぎるクラスから逃れるため、スキルを隠して普通のクラスで暮らしている。
どうせこんなスキル使えないだろうし。
何事も普通が一番。あんなとこ行ったらすぐ死んじまうよ。
それにしても、あのスキルすごいな。さっきからずっと、炎があがってるぞ。
身長150センチあるかもわからない女の子が使ってるのに。ホント物騒だな…。
ああ怖い、くわばら、くわばら。
「さあ授業は終わりだ。全員集まれ!」
体育教師が俺を含めスキル鑑賞をしている生徒を呼ぶが、俺たちは夢中で気がつかない。
「早くしろ!何だ?俺のトライアスロン練習手伝ってくれるのか?」
げっ…。それは無理。
この教師に連れて行かれた生徒は筋肉にしか興味がなくなるという謎の噂がある。
俺もそうなりたくはないし。
スキルの観賞をしていた俺含め数人はそそくさと列に並ぶ。
「気を付け!礼」
「ありがとうございました」
適当に挨拶をして教室に戻っていく。
カサカサッ─
ん?何か動いたか?
教室に戻る途中、茂みで何か動いた。
猫か?動物なら何でもオーケーなくらい動物好きの俺は、少し茂みを覗いてみる。
えっと、確かここら辺…。
さっき音がした場所を見てみる。
折り紙の鶴?なんでこんなところに…。
少しの間思案していたが、そこで次の授業のことを思い出す。
やべっ、早く着替えないと。次、遅れるとうるさい先生だった。あいつ、一緒に旅に出ようとか言い出しそう…。
そう思い、駆け足で教室に戻っていく。
そんな俺を背に、その折り紙の鶴は空へ飛びたっていった。
まるで意志があるかのように。
そして俺は、普通の高校生活が、たった一か月ちょっとで崩れ去ろうとしていることを...
その時は予想だにしていなかった。
今の普通の生活と、真逆の生活を送ることになろうとも…。