「ああ…、それじゃあ唯華。できれば俺がスキル所持者ということを黙っててほしいんだけど…」
無理だとわかっていてお願いしてみる。そして答えは想像通り、
「それはできないな」
やっぱり…。
「だってわたしは拓人君を連れて行こうとしてるんだもん。私たちのクラスに」
ここで一つ疑問が浮かんだ。
「何で俺をわざわざクラスⅠにいれようとしてるんだ?俺なんかいてもいなくても変わらないだろ」
すると唯華は恥ずかしそうに言う。
「えっと…。実は、もうしばらくするとこの辺り一帯の自治権をかけて、宝玉争奪戦があるの。ほらここって、半径五キロ以内にちょうど東西南北で学校があるじゃない。この四校で勝ち残った高校がこの辺りの自治を担当できるの」
なんだそれは…。ふざけてんだろ…。
「それでね、クラス内で五人一組で出場しなきゃいけないんだけど…。わたし達のチーム一人足りないんだよね…。っで、もう一人必要ってわけ」
………本当にふざけてる。
誰がそんなもののために平和な日常を捨てるかよ。
「他をあたるんだな」
そのままここから去ろうとする。
「待って!もし朱南高校以外の高校が勝ったら、『今』 と生活するうえで色々変わっちゃうんだよ!」
多少変わろうが、特に問題はない。でも、まあ聞いておくか。
「例えば何が変わるんだ?」
聞かれた唯華は慌てて思い出そうとしている。
「えーと、夏祭りの日程とか、この辺りの開発とか、あっ、あと授業料無料とか!」
なんだって?授業料無料だと?
「どういうことだ…?」
「夏祭りは学校ごとにいろいろ意見があるから…」
「違う。授業料の事だ」
一応、うちの家計では重要なことなので、ちょっと神妙な感じで聞いてみた。
「授業料無料って、去年朱南高校が自治権を獲得して決めたことなの。だから、今年はどうなるかわからないっていうこと」
言いながら、唯華は授業料が俺の弱点だと気づいてしまったみたいだ。
ただ授業料はまずい気がする。まずこの高校に来た意味が無くなる。
母さんのことだから、
「授業料無料じゃなくなるのー?じゃあ学校やめなさい。バイトでもしとれー」
とか言われそうだ…。さすがに高校中退じゃこれから先、将来が大変だ。
「なんで四人しか集まらなかったんだよ…。お前らのチーム弱いのか…?」
泣きそうになりながら聞く。
「いや、その逆だよ。わたし達のチーム学年でもトップぐらいの強さだよ」
「じゃあなんで…」
唯華は少し言いたくなさそうに、
「みんな怪我したくないんだって。仲間のスキルに巻き添え食らいたくないって…」
……そんな所に入れって言うのか…?
「やっぱり俺には無理が…」
「授業料は?」
言い終わる前に唯華に釘を刺される。
─うっ…!やっぱそれだよな…。学年トップを争うなら、戦力的にもだいぶ関係するだろうし…。
あーーーもうわからん…。誰か助けて…。
「すまん…。少し時間をくれ…」
「いいけど、二日後までね」
俺は疲れ切って、うちに帰る。その後ろで、
「拓人くーん。ちなみに、うちのリーダーがわたし達のチームに入らなかったら、朱南が勝っても拓人君のためになることはしないってー!」
何だよそれ…。もう選択肢はないんじゃないか…。
ちくしょう。何でこんなことになってるんだよ…。
絶望しながら、とりあえず足を進める俺こと藤島拓人だった。
