カンティーナ セバステ(シッラ セバステ):バローロ(リゼルヴァ ブッシア)1984 その2 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.89

Cantina Sebaste (Sylla Sebaste)-Barolo (Riserva Bussia) 1984 その2

 

前回の続き、Sebasteの歴史です。

“dama di Langa” ランゲの貴婦人ことSylla Sebaste。まだまだ男社会であった1950年代にBaroloの地を華麗に駆け抜けた彼女の貴重な写真が見つかりましたので載せておきます。彼女が逝去したのが1985年、息子のMauro Sebasteはビジネスパートナーを得、母の名を付けた法人を設立しました。Vini d’Italia1988では28歳の若さでCantina Sebasteのワイン3種にDueBicchieriをもたらし、この89年版ではRis.Bussia84で、更に90年版ではBussia85でTreBicchieriを獲得します。しかし、彼は彼が理想とするワインと、経営の為のワインとのギャップに苦しみ始め、後にMauroは実家を離れます。彼が造るワインが想像以上に高価で取引される事へ違和感を覚え決別した訳で、量産型ワインの生産を強いられた訳ではないと記録に残っています。

1991年にMauroは自分の名を付けたワイナリーを設立します。つまりこれ以降、本家は人の手に渡りながら依然生産を行い(Sylla Sebaste)、Mauroは母の教えを受け継ぎながらも自分の理想を追求するワイン造りを行う(Mauro Sebaste)という、Sebasteが二社共存する状態になります。なお、Vini d’Italia1992ではCantina Sebaste(=Sylla Sebaste)にはSebaste家ゆかりの人物は誰も残っていないと明記しています。

 

さて、表題の1984に関して。

1989年版のVini d’ItaliaではBarolo1984としか記載がありませんが、その後、それはRiserva Bussiaだったと訂正が成されます。Mauro SebasteはBussia に畑を所有していないので、この作品は現在Mauro Sebasteが経営している彼の畑からの物では無く、Mauroが離れたSylla Sebaste社の所有する畑からの作品であると判断出来ます。つまり、Sylla健在時の最晩年にBussiaから収穫されたブドウを息子Mauroが醸し、しかも最上級のRiserva Bussiaに仕立てたという、二人の最後の共作でありSyllaの遺言であり、当然の如く傑作となりました。添付写真の様に、Vini d’Italiaはたっぷり二段を使ってこのワインについて褒め称えますが、未来のMauroの旅立ちまでは予期しておらず、彼とエノロゴのDonato Lanati(Gancia出身のエノロゴ。添付したVini d’Italia89年版にはRenato Lamatiと明記していますが、いい加減な名前間違いです。黎明期のVini d'Italiaは書き間違えが多く注意が必要です)の活躍を褒めるに留まっています。

 

Mauroがいつの日かBussiaを造る日が来るのであれば、その時に漸くこのワインの真の意味での復活となるのでしょう。今回は三代目当主となる現行オーナーのBarolo Bussia(悪くありません)のテクニカルデータや畑情報などを掲載しましたが、スタイル・味などはSyllaの流れを汲んでいる訳ではありません。実はMauroが手放した後から現オーナーが買い取るまでの過渡期の間に二代目オーナーが存在したのですが、この二代目運営時に著しく評判を下げてしまい、三代目オーナーはすっかりやり方を変えなければならなかったのです。つまり、創業者の考え方・思想などは、二回に渡る譲渡の時に無くなってしまったのです。残念。

 

私の渡伊当時は既にSyllaはご逝去後。沢山の本数を生産している訳でも無く、さほど流通もされず、大手でも無いSebaste。『ランゲの貴婦人=dama di Langa』とも呼ばれ、1950年代からワイン業界に身を投じた彼女の作品、一足遅く飲めず仕舞いとは残念無念。イタリア滞在当時に成し遂げられなかった心残りの一つです。ぎりぎりのタイミングでMauroの仕込んだBussia85(90年版でTreBicchieri)を一回だけ飲めた事は幸運。堂々たる体格。優良年でもあったので、心行くまでクラシックBussiaを堪能した事だけ覚えています。

 

いつかSyllaの事も書きますね。

この項 了。

 

左から右へ新しい順 シッラ・セバステ3種、現行マウロ・セバステ2種

“dama di Langa” ランゲの貴婦人 Sylla Sebaste

Gambero Rosso Vini d'Italia1989               

Mauro Sebaste マウロ・セバステ カンティーナ 場所

Mauro Sebaste Barolo Riserva Ghe テクニカルシート