カ’ロネスカ:ソーヴィニョン デル ポデーレ ディ イップリス 1986 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 66

Ca’Ronesca-Sauvignon del Podere di Ipplis 1986

 

1988年から30年にも亘り、現在も出版されているGambero Rosso。

当然その間には、カンティーナの閉鎖、所有者変更、生産中止、同名ワインのスタイル変更などがTreBicchieri獲得ワインの身にも起こります。今までご紹介した中では、Giorgio GraiのBellendorf が閉鎖、Grattamaccoは所有者とワインスタイルの変更、AmaのSan Lorenzoは生産中止等様々な事があります。

但し、そのワインが3Bicchieriを獲得した歴史は残り、後年出版されているGambero Rossoでも過去の3B獲得ワインが掲載され、今までの栄光を認めつつ、我々がバックヴィンテージを愉しむ為の指標となっています。

 

但し、このワインは、過去に3Bを獲得した歴史が、今日まで紹介・掲載されていないのです。現在でも同名の会社が同名のワインを限定生産し続け、現ガイドでも生産者を紹介されていますが、86ヴィンテージの3B獲得に関しては、僅かに1988~1991年の間だけ掲載され、以降は全く触れられません。

 

黎明期~初期のVini d’Italiaは編集者やテイスターの論調がとかく熱かった。ネットも無く、生産者からの情報もさほど出回らない時代、ワイン情報は声か紙に頼っていた時代にはVini d’Italiaの各ワイン解説は熱がこもった文章が多かった。このFBでも何回か紹介しましたが、2コマに渡ってびっしりとワインの感想が書かれている事もザラでした。但し、その中にはテイスターが堂々と生産者に対し物申す事も多くあり、結果、Gambero RossoとSoldera間で起こった様な、生産者とテイスターのトラブルになる事も多々ありました。

 

TreBicchieri不掲載は、そのトラブルです。Vini d’Italia91年版で当時のエノロゴ・Fabio Coserが同社から退いた事を論じ、その年のヴィンテージ1989に若干低めの評価を行い、更にCoser退社に伴い今後降りかかるCa’Ronescaの苦難を思い憂いたのです。

Fabio Coserと言えばその時代きっての名エノロゴ、特にFriuliのたっぷりと酸を残した白を造らせれば、現在でも十分にエースだと思われる凄腕でした。

Vini d’Italiaは91のガイド誌上で、新ヴィンテージの89を目の前にしながらも、彼の過去の作品である1986のSauvignon Ipplisを褒めちぎって見せたのです。その後は皆様の想像も容易いと思います。Ca’Ronescaからの抗議の結果、翌年からはカンティーナ情報も含め全て無掲載に。1996に『双方の大人の事情』で和解・再掲載となりましたが、それ以降はこのいざこざを含めてお互い何も無かった事になり、1986に授賞した3Bicchieriの歴史は全て闇の中という訳です。

現存する白もなかなかの味です。但し、Vini d'Italiaも生産者もその事実を明らかにしないなら仕方ない。テクニカルデータだけ載せておきます。

 

当時のCa’Ronesca&Fabio Coserの作品を、90以降に渡伊した私が飲む事は出来ず仕舞い。但し、Coserは退社後すぐに自分のカンティーナRonco dei Taasiを立ち上げます。良かった良かった、これが噂の幻3Bの味かとSauvignon Blancを前に大感激。予想を格段に上回るキレッキレ感。当時はもちろん、温暖化の影響で酸がボケた白が多いこの頃、ここの得意な爽やかな天然リンゴ酸、貴重でしょう?但し、この可愛らしいアナグマ印を見ては、それだけの力を秘めているワインとは到底想像できない。彼にお会いした時に何故このアナグマ印エティケッタデザインにしたのか、と伺ったところ『自分が移住するよりも前から、この畑付近に沢山住んでいて、それでもこの土地が気に入ったからそれを承知で買ったのさ。でも、自分がブドウを消費する前に(収穫してワインにする前に)、彼らが消費しちゃう(食べちゃう)けどね。ま、大家さんには敬意と家賃を払わないといけないから、それでもOKさ』との事。世界中に彼のワインと共に紹介され、しかも彼渾身のブドウを食べられるなんて、幸せな大家ですね。

 

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