特別編 スコッチウイスキー:グレンカウダー 1964 サマローリ | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

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Glen Cawdor 1964 Samaroli

 

今回は特別編、マルケージの食後酒ワゴン&バー棚のご紹介です。Samaroliボトルのスコッチです。

 

Scotch Whisky  Glen Cawdor 1964 Samaroli
1962年。加水。シェリーカスク。20年間熟成。1983年リリース。360本。私は82番です。
ブレーシアの親父の逸品。こんな事言っていたら、世界中のシングルモルトコレクター&バーマンから怒られる?

でも、未だにあのおしゃべりなブレーシアの酒屋の親父がこんなカリスマだとは思えないのです。

 

この一本、やはりマルケージ・ミラノ時代からでしょう。圧倒的な情報量の多さと質の高さ。開けてから月日を感じさせない程、圧倒的な薫りの量。アルコールが柔らかく、鼻抜けも柔らかく、更に返りが凄まじい。薫りの要素は3段階。ベリー系の果物・木の実から始まり、重い甘さと当然のごとくオールドシェリー、アルコールが抜けた後はコニャックと蜂蜜ですね。ん?ORDのコメントと良く似ていますが、さてさて、その訳は?

 

子供の頃、私の実家近くに陶器を焼いているおじいちゃんがいました。白髪に顎髭ぼうぼう、でもにこにことした優しいおじいちゃん。そのおじいちゃんの孫と私の弟が同じ幼稚園で、その縁で私も時々お邪魔して陶器を焼いている釜を見たり、時には藁を編んで草履を造ったりと、あちらの家で遊んでいました。
そのおじいちゃん、実は非常に高名な人で、且つ、ある古陶器事件の中心人物だったのです。事件の名は『永仁の壺』。おじいちゃんの名前は『加藤唐九郎』翁といいます。おじいちゃんが若かりし時に造ったとされる『壺(瓶子)』が鎌倉時代『永仁二年』に造られた古瀬戸の傑作であるとされた、という事件です(調べて見て下さい)。真相は未だ藪の中。優しいおじいちゃんは1985年にご逝去されました(漫画&アニメ『美味しんぼ』覚えていますか?『唐山陶人』先生の背格好・風貌・名前のモデルがおじいちゃんです)。

 

さて、話をGlen Cawdorに戻します。誰がどう見ても傑作なのですが、中身が謎です。中身はGlen Cawdor、ならば蒸留所はSpring Bank?いや、そもそも中身は本当にGlen Cawdor?いやいや、ORDだと。少し前の事、とあるウィスキーコネサーが、(記憶があやふやで元来アバウトな)Samaroli自身に問い正したところ、実は案の上、彼自身も定かではなかったとの事。後に彼自らが書類の山から『中身はORDだ』なる書類を見つけ、そのコネサーに連絡したとか。

だからORDと似ている部分が多いのか?ならば何故ラベルはGlen Cawdorなのか?そもそもGlen CawdorはORDにこれだけ似る物なのか?それは天才Samaroliの成せる業だから似て当然なのか?

 

誰も真相を聞き出せず、事件が闇の中となった事、世間は『それでも傑作に間違いない』と、壺もウィスキーも評価した事。Glen Cawdorの薫り・味を思い出すたびに、唐九郎翁とSamaroli双方の顔・声が蘇ります。

流石に当時子供だった私には陶芸の良し悪しは分かりませんでしたが、でも大好きなおじいちゃんという事に間違いなく。そして、大好きなモルトであり、大好きな酒屋の親父という事に間違いなく。前回のORDでは書きませんでしたが、Silvano Samaroliは2017年にご逝去されました。

 

人生、こんな謎の一つや二つ、あってもいいですね。

Distillati&Liquoriはまた来週にご紹介します。