Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 36
特別編 Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi その1 ORD 1962 Samaroli
今回は特別編。ワインでは無く、ハードリカーです。
私が働いていたマルケージのハードリカーリストが見つかりましたので掲載します。
ひとつひとつのウィスキー、コニャック、アルマニャック、カルヴァドスに想い出も沢山あるのですが、今回は1本だけご紹介します。
Scotch Whisky ORD 1962 Samaroli
1962年。カラメル無し、フィルター無し、加水無し。カスクチョイス&ヴァッティング。22年間熟成。
1984年リリース。750本。私は538番です。
イタリア・ブレーシアの鬼才。いや、世界中にも熱狂的な信者が沢山いるスコッチのインディペンデントボトラーですが、私にとってはよくしゃべるブレーシアの酒屋の親父であり、ハードリカーの師匠です。彼から教わった事は今でも財産です。
この一本、当時の減り具合からするとマルケージ・ミラノ時代からか。こちらに引っ越してからSamaroliから貰った物では無さそうでした。さすがのマルケージでも、販売時からこれが理解できた人は少ないと思います。MilanoのSan BabilaにはGINROSAがあり、そこの店長にイタリアにおけるシングルモルトの立ち位置をしっかりと教えてもらいましたが、1994年当時でもまだまだシングルモルトラヴァーは少なかった。それより更に10年前にこの傑作を世に出したSamaroliという人はどれほどの慧眼の持ち主か。ずっと私の一押しの一本でした。
圧倒的な情報量の多さと質の高さ。開けてから月日を感じさせない程、圧倒的な薫りの量。フルストレングスなのでアルコールも強く、飲めば鼻抜けも早いのですが、抜けた後の返りが凄まじい。波が引き、その後の高波の様です。薫りの要素が4段階。揮発系と柑橘系から始まり、花と熟れた果物に変わり、最後前に重い甘さと麦、種子。アルコールが抜けた後はキャラメルクリーム、蜂蜜ですね。ワインとはここが違うところ。バレルの影響もたっぷり反映し、アルコールのニュアンスも変換できます。前半のアルコールに乗ってくる薫りと抜けた後の薫りがこれだけ違う。100ワード位は見つかりそうです。特に3番目と最後の薫りのラッシュが凄い。ローストピーナッツ、アーモンド、圧倒的なプラリネ、菓子繋がりで最後の甘いキャラメルクリームや上等な焼き菓子に変化します。味も薫りに準じますが、最後にはアルコールのとろみが上質な旨味に変わる。何故か古いBaroloと同様の味わい(上品なランシオ)。飲むといつも決まって、マルケージのパティシエにミニャルディーズをねだりに行きました。シガーでもチョコレートでもなかった。
あの親父は何食わぬ顔して策士だなあと、あの親父がもし、この緻密な設計を計算したのだとしたら、とんでもないなと感嘆しました。
全く売れなかった一本。自分が日本に帰るまでに無くなるだろうか、自分がいなくなったら、また陽の目を見ない日陰の存在になるのかとの懸念も、ある日スイスからのお客様に見つかり、マッハで無くなり、ラベルが私の手元に残ったという話です。これの世間的な高評価を知ったのはごく最近。
次回はまたVini d’Italiaに戻ります。ハードリカーは来週、また一本ご紹介します。