Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 21
Masi-Recioto Amarone Mazzano 1980
Vini d’Italia88のTreBicchieri受賞ワインにちなんで書いてます。今回で21話目。
Veneto, Amarone, Masi。
Amaroneの話をする時、消防官の友人を思い出します。同じ消防署に勤務しつつ、私と同様に食に興味があった彼が、イタリア旅行土産として持参したのがAmaroneでした。まだワイン初心者の我々、飲んで驚愕、思わず顔を見合わせる。すげえ。正露丸か? これが本場の赤っていう奴か??
全ての『本場の赤』がこの様な味になる訳ではなく、これは極めて特殊な造り方、と知るのはその後の事。
数あるAmaroneの中でもこのMazzanoに出会うのはやはり渡伊後。Veneziaにて。当時出版されていたVeronelliのEnotecaガイドで紹介された店で(写真参照)Mazzanoのクセがすごいエティケッタをごまんと見つけ狂喜乱舞。Campolongo di Torbeや、これまたクセがすごいエティケッタのQuintarelliも大人買い、更にその勢いで当時人気が出始めたAl Covoへ。Al CovoではVenezia自慢の魚料理など目もくれず、昼間からBigoli al ragù di salsicciaやFegatoと共にMazzanoを注文、ひたすら料理とワインと格闘しました。
印象に残るのはやはり79, 80, 83, 85, 88。私はいつもMazzanoがCampolongo di Torbeより強く、荒々しく、飲みにくいからこそAmaroneと感じます。公式テクニカルシートでは、葡萄品種について両クリュ共に
Corvina, Ronidinella, Molinaraの三種とされていますが、当時の私のメモによれば、更にNegrara, Rossignola, DindarellaがCampolongo di Torbeに、Mazzanoは前記6種に更にRaboso Veroneseが加わっていると書かれています。
当時の印象は現在よりも更に垢抜けず、力強いタッチで複雑。マニア向け。グラスにべっとりとまとわりつき、向こうが見えない色黒さ。脳に抜けるような爆発的な花・シガー・干し草・枯れ葉・土・干葡萄・特筆すべきインキ香とヨード香などなど複雑怪奇な薫り。歯茎に染みいり、舌に纏わりつき、喉にへばりつく甘酸苦、口に含んでいると歯茎と舌が痺れてくるとんでもない感(同記憶が、唯一、豪・Grangeの表記がGrange Hermitageだった頃に有)。
あの時代、みんなが勢いで造っていた時代のAmaroneは、どのメーカーも味を綺麗にまとめる気などこれっぽっちもなかった。クリュや特醸品は尚更。だからこそMasiを含め資金に余裕のある生産者は量産品のValpolicellaや、柔らかタイプのAmarone(Masiの場合 Vaio Armaronなど)を生産し、収支を底支えしながら、リリースまで5年、更に飲み頃まで10以上年かかる様なワインを平気で生産していたのだと思います(冷静に考えればVini d’Italia88で漸く80の試飲評価)。
醸造技術の進歩は大いに喜ばしい事であり、その後、様々な場所で知り合ったAmaroneの生産者はエレガントなスタイル且つ飲みごたえ十分の作品で私を魅了してくれました。今の時代、当然早めに飲み頃になり、綺麗な状態が長く続くワインを良しとする風潮も理解できます。しかし、それでも、いつになってもどす黒い色、情報過多になる薫り、舌をもっていく味、いつ飲めるか分からん様な化け物ワインがあっても良いではありませんか。飲む時には腹を括る、二日酔いを覚悟する、料理と共に格闘する、そんなワインが現代にちょっとぐらい合っても良いのではと。
前述したVeneziaのEnotecaは廃業し、Al Covoもメニューが様変わりして今では海の幸が得意な店になっている様です。確かに時は過ぎ、変わりました。でも、昔と変わらぬ志も応援したいと思います。まだワイン初心者だった私が、飲んだ瞬間に友達と顔を見合わせ『すげえ、すげえ』と盛り上がった、そんな圧倒的な驚きを今も期待しています。
過剰なAmarone、大いに結構。
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