晩餐
肉の焼きあがる香りが食欲をそそる。
そんなのはここではリューゲンで、肝心のマリアは食事の前だというのに林檎を齧っていた。視線は壁に向けられたまま。
何かを見ているわけではない。林檎が食べたかったわけでもない。
それでも何かを食べろといわれたら、そんなものしか喉を通らないというだけの。
台所で腕を振るうのはターシル。体ばかり鍛えてきたこの男は、自身のための食事作りというのを怠らない。その結果として料理上手となっていた。
まだ仲間たちに出会ったばかりの頃は、オムレツを作っただけで驚愕されたものだ。
「なんでだよ? おかしいか?」
訊ねれば返事は「うまいからいいよ」。
そういうリューゲンはまず料理なんてしない。聞けば母親の手料理なんて食べたことがないそうだ。
「俺はばあさんに育てられたからその味だな。お前の母親は料理嫌いなのか?」
「みんな召使いがやってたぜ。そうか、母親って飯作ってくれるもんなのか」
「どんな家なんだよ・・・・」
話はそこで途切れた。
リューゲンは家族のことを話したがらない。何かあるのだろうが、ターシルも他の仲間たちもお互いの生い立ちについて探ることはしなかった。
「いい匂い!」
リューゲンが台所に入ってきた。
「テーブルに運べよ。マリアの好きな鶏の胸肉をスパイスかけて焼いてみたんだが、よくできてるな我ながらさ」
台所を汚すことなく料理をするターシルに感心しながらも、トーストされた付け合せのパンを千切って口に放り込む。
香ばしい風味が口の中に広がる。あらかじめ塗られていた塩気のあるバターが心地よく胃を刺激し、食欲に火がつく思いに駆られた。
「お前天才だよ」
「いいから運べって。マリア呼んで来いよ」
「林檎食ってる」
「何を食っててもいいが飯になるもの食えって」
そのとき、窓が開く音がした。
「ハ・ティムじゃない!」
マリアの驚く声が聞こえた。
自らテーブルを整えながらターシルが言った。
「また空飛んできたのか? まあ久しぶりだな」
「みんなで飯食いながら語り合おうぜ。これからの狂気をさ」
リューゲンはすでににパンを二枚平らげていた。