少年が昨日、満12歳を迎えた。
干支は蛇なので、今年の12月30日が
一回りしたことになる。
遅生まれの皮肉とでもいうべきだろう。
ちょうど12年前、出産予定日から6日ずれ込んでの
30日の昼前の出生だった。
病院からもうまもなく生まれるという連絡を受け、
分娩室の外の廊下で待機していると、
胎児の心拍音をモニターする音だけが
聞こえてきたのを覚えている。
母親の苦しそうな嗚咽が2、3度漏れ聞こえたが
それには耳をふさいだ。
モニターの心拍音は機械的に流れ続ける。
途中、500回ほどを数えた処でモニター音が
途絶えたと同時に、あの鳴き声が聞こえた。
静かな感動がふつふつと湧いてきた。
後からかけつけた両家の母親達は
一応に号泣した。
母性本能が刺激された時の女性の涙は
純粋で素敵だと思った。
一時間後、お産を終えた妻の病室で
見舞いを兼ねて新生児の顔をじっと眺めていた。
病室の窓から斜めの陽が北西の山へ消えた。
12年前の2001年12月30日のことを、
そうして息子に語っていた。
照れくさそうにして、これからもがんばるから、
お父さん、お母さんありがとう、
とだけ言った。
舞鶴の道の駅で食べられるイクラ丼を
食べさせてほしい…
というのが、少年の誕生日のリクエストだった。
シンプル過ぎて、親としては拍子抜けしたが
本人の希望なので仕方がなかった。
長蛇の列に並んで、待って、やっとの思いで
ありつくそのご馳走の味、というものを
味わいたいから…これ旨い!
そう付け加えて彼はうれしそうに
いくら丼を平らげた。
中空はまもなく紺碧からチャコールに変わった。
どこの家の煙突だろう、
立ち上る焦げ茶色の煙が郷愁をそそる。
鹿鳴館時代の大正モダンを意識したような家。
それは十分すぎるほど、煙突を持つに
ふさわしい威勢だった。
炊いているのは暖炉だろうか。薪ストーブだろうか。
煙の香りはほのかにビターだった。
多分、クヌギかサクラの潅木。
一昔前、という風情より。
冬の歌曲に詠われた世界をリアルに感じる喜びがあった。
暦では大雪を迎えた今日。
脳裏で、シューベルトのリンデンバウム(菩提樹)が
微かに流れていた。
干支は蛇なので、今年の12月30日が
一回りしたことになる。
遅生まれの皮肉とでもいうべきだろう。
ちょうど12年前、出産予定日から6日ずれ込んでの
30日の昼前の出生だった。
病院からもうまもなく生まれるという連絡を受け、
分娩室の外の廊下で待機していると、
胎児の心拍音をモニターする音だけが
聞こえてきたのを覚えている。
母親の苦しそうな嗚咽が2、3度漏れ聞こえたが
それには耳をふさいだ。
モニターの心拍音は機械的に流れ続ける。
途中、500回ほどを数えた処でモニター音が
途絶えたと同時に、あの鳴き声が聞こえた。
静かな感動がふつふつと湧いてきた。
後からかけつけた両家の母親達は
一応に号泣した。
母性本能が刺激された時の女性の涙は
純粋で素敵だと思った。
一時間後、お産を終えた妻の病室で
見舞いを兼ねて新生児の顔をじっと眺めていた。
病室の窓から斜めの陽が北西の山へ消えた。
12年前の2001年12月30日のことを、
そうして息子に語っていた。
照れくさそうにして、これからもがんばるから、
お父さん、お母さんありがとう、
とだけ言った。
舞鶴の道の駅で食べられるイクラ丼を
食べさせてほしい…
というのが、少年の誕生日のリクエストだった。
シンプル過ぎて、親としては拍子抜けしたが
本人の希望なので仕方がなかった。
長蛇の列に並んで、待って、やっとの思いで
ありつくそのご馳走の味、というものを
味わいたいから…これ旨い!
そう付け加えて彼はうれしそうに
いくら丼を平らげた。
中空はまもなく紺碧からチャコールに変わった。
どこの家の煙突だろう、
立ち上る焦げ茶色の煙が郷愁をそそる。
鹿鳴館時代の大正モダンを意識したような家。
それは十分すぎるほど、煙突を持つに
ふさわしい威勢だった。
炊いているのは暖炉だろうか。薪ストーブだろうか。
煙の香りはほのかにビターだった。
多分、クヌギかサクラの潅木。
一昔前、という風情より。
冬の歌曲に詠われた世界をリアルに感じる喜びがあった。
暦では大雪を迎えた今日。
脳裏で、シューベルトのリンデンバウム(菩提樹)が
微かに流れていた。
