7月29日、午後2時10分。
晴れ間が訪れた。
曇り空は、一昨日までの夏日にも
ひとときのやすらぎを与えてくれたが
つかの間に終わった。
透き通るようなブルーが
鋭い陽光とともにお目見えした。
太陽が放つコロナはますます勢いづいている。
きっと数千キロなのだろうけれど、
太陽と日本を結ぶ直線距離がわずかに
近くなっただけで、これほどに強くなるものか。
地球の109倍にもなる太陽のエネルギーの偉大さ
を改めて思う。
蝉の声は、アブラゼミではなく
ヒグラシの声の方が目立った。
クライアントDの担当者と話す、
山間のログハウス、カフェの窓から。
久しぶりに感じる、スローなひとときだった。
ヒグラシの輪唱はいつしか凪に変わった。
どういうわけか、話題は70年代の思い出になり
ロックと映画、俳優、アイドルの好き嫌いに伸びた。
そして、最後に音楽教科の歌についての
語り合いになった。
夏が来れば思い出す、遥かな尾瀬、野の小道。
夏の思い出。
ですか‥小学6年の時、学期末の歌のテストで
歌わされましたよ。
と彼がポツリと言った。
詩の内容にしては味気のないタイトルだよね、
と僕が答えると、そういうものでしょ
Simple is bestでしょ、子どもには
覚えやすいタイトルとして、よく考えたもの
だと思う、と彼が正すように答えた。
同時に、西条八十の僕の帽子という詩と
この曲がイメージ的にオーバーラップする
と僕は次に放った。
お母さん、どうしたでしょうね
僕のあの麦わら帽子
夏碓氷の霞積の谷に落ちて行った‥
記憶に残る冒頭の2行をささやくように
そらんじてみた。
彼は、八十の詩であることは知らなかったが
人間の証明に出てくる詩として覚えていた。
人間の証明。
森村誠一が、40代半ばで書いた推理小説、
森村を推理サスペンス作家として
メジャーにした大作だった。
タイトルの言葉としては、
とても哲学的で重く大きい。
彼があれを書いたと同じ40代を迎えた
僕たちには、到底及びのつかない
言葉ですよね。
と最後に、彼が占めた。
ログハウスの南側の床が、ひらひらと
きらめいていた。
直射日光を避けるために植えられた
銀杏からの木漏れ陽だった。
風は少し冷め、ヒグラシの声は
ますます盛んになっていた。
月齢を読むと、今晩から満月になるはずだ。
真夏の月は、あのオフィーリアを思う。
狂恋の姫、と訳される
アルチュール・ランボオの詩に登場する
幻の女性を。
とりとめのない、今日のテクスト。
流れるままに進めるヒト筆書きも
たまには悪くない。
客観的になるのは、仕事で書くコピー
の時だけでいい。
ここはそのリハーサルの、テイクを
重ねる場所なのだから。
今回、ここまで読んでくださったみなさま、
どうもありがとうございます。
