首都高をのろのろと進むゴルフ帰りの車の後部座席で、一人焦っていた。
どんどん強くなる雨が、フロントグラスを激しく叩いている。
流れ落ちる雨の先に、首都高の交通情報案内が赤く霞んで見える。
渋滞を示す赤いラインの先には、赤のぺけ印が点灯している。
事故だ。
携帯を開き、時間を確認する。
既に待ち合わせには、一時間近くも遅れている。
彼女は帝国ホテルのレセプション前でイライラしながら待っているはずだ。
車がなかなか進まないので、彼女に到着予想時間を連絡できない。
ようやく首都高の出口を降りると、今までのフラストレーションを振り払うように、車は日比谷に向かってスピードを上げる。
帝国ホテルのエントランスに飛び込むと、彼女が駆け寄ってくる。
「ごめん。事故渋滞で・・・」
「無事に到着して良かった。雨が強くなったから、無理して急いで事故を起こしたりしないか心配していたの」
この一言で、冷たい雨に固まっていた緊張が一挙に解け、心の中に彼女に対する熱い思いが湧き出てきた。

彼女の手を取るとエレベーターに乗り、鉄板焼きレストラン『嘉門』に向かった。
ところで、鉄板焼きは和食なのだろうか?
魚介類や牛肉を焼くところだけを見れば、純粋な和食とは言えない。
しかも、料理人ではなく、シェフがサーヴしてくれる。
もちろんシェフの服装は洋装である。
でも鉄板焼きは、世界に認められた日本生まれの素晴らしい料理なのだ。
その証拠に、海外でも料理の名前はTEPPANYAKIである。
早速前菜に合わせて白ワインを注文する。
ブッチ、ヴェルディッキオ・クラシコ・スペリオーレ、2007年は、イタリア・マルケ州のワインだ。
通常は軽いワインだが、ブッチは軽さの中にもコクがあり、魚介類の鉄板焼きに良く合う。
アミューズは里芋の揚げ物。
う~ん、和食と言うか、何と言うか、でも美味い。
続いて前菜。
鴨が美味い。
続いて、目の前で焼かれた大きな車海老。
さらに、黒ムツ。
そして、牛肉の前の、焼き野菜。
今夜の赤は、リブランディ、グラヴェッロ、2005年。
イタリア南部、ブーツで言えば丁度爪先の位置にあるカラブリア州の、スパイシーなワインである。
セパージュは、カラブリアの地ぶどう、ガリオッポ60%に、カベルネ・ソーヴィニヨン40%である。
有機栽培のぶどうを用い、新樽で醸造されたグラヴェッロは、カラブリアのトップ・ワイナリー、リブランディ社の代表作で、焼肉や唐辛子にもマッチする強いボディを持っている。
レアーで焼いてもらった、ヒレとサーロインが美味い。
二人でヒレとサーロインを交換しながら食べると更に美味い。
今日のゴルフは後半雨に祟られ、帰り道では事故渋滞に巻き込まれ、彼女を一時間以上も待たせてしまった。
でも、『嘉門』のお陰で彼女も上機嫌。
終わり良ければ全て良し、の夜でした。