表題の作品を読みました。以下にその感想です。
『にわか名探偵』
大山誠一郎(光文社)
あの『ワトソン力』の続編である。前作の最後で和戸宋志は私立探偵にならないかと誘われるが、そうなることなく警視庁捜査一課で「活躍」している。そして本作でも和戸の周辺20メートル以内にいる人たちが卓越した(?)推理力を発揮していくのだ。
各エピソードのタイトルはマニアならすぐにピンとくるミステリのパロディになっているのだが、残念なことにジョン・ディクスン・カーのものがひとつも無い。「昼走る」とか「行かず後家の殺人」とか「油断の窓」とか、いくらでも出来そうなものなのだが。まあ、これはシリーズ第三作に期待しよう。
第一話「屍人たちへの挽歌」はクローズドサークル化した映画館内での殺人。
第二話「ニッポンカチコミの謎」ではヤクザの親分がエラリー・クイーンのマニアで、神棚に全作が飾ってある。その組事務所の物置部屋で死体が発見される。
第三話「リタイア鈍行西へ」は一両のみで運行する地方の電車内での殺人。
第四話「二の奇劇」はシステムエラーのため空中で止まってしまった二つのロープウェイの中での殺人だが、二つ並んで止まってしまったロープウェイの両方で同時に人が死ぬ。
第五話「電影パズル」はハイテクを使ったエイリアン退治のゲームの最中、参加者が死体で発見される。
第六話「服のない男」はタイトルはダシール・ハメットでも、中身はエラリー・クイーンの『スペイン岬の謎』を彷彿させる。
第七話「五人の推理する研究員」は第一話から第六話までを踏まえた内容なのだが、前作『ワトソン力』に続いてまたもや和戸は何者かに監禁されてしまう。その何者かはすぐ明らかになるのだが、流石にここまでやると「作り過ぎだろう」とツッコミが入るかもしれない。
どれも特定の状況で殺人が起きてすぐ推理に入るので、これをもって「ストーリー性が無い」という批判が出るかもしれない。しかし、究極の本格物はこれでいいのだ。だいたい、登場人物たちの推理合戦で十分ストーリー性があるではないか。
全体を通して私が「うむ」と唸ったのは、163頁にある
「推理は無礼講よ」
という台詞で、これは多重推理物の名言であろう。後世に残したい。
もうひとつ、私が好感を持ったのは178頁に「正反対」という言葉が使われていることで、間違っても「真逆」などと書かないのが立派である。「大山誠一郎ガンバレ」とエールを送る。