亡くなった父の蔵書にあったのでふと読んでみた。

史実に基づいて書かれた小説だが、こんな事実があったとは驚いた。

日露戦争前に、厳寒地での戦いに備えて、青森の別の部隊が、明治35年1月に八甲田山を両側から登る訓練を行う。

無謀ともいえるこの行軍で、片方の部隊では、199名が亡くなる。

 

小説なので細かいやりとりはどこまで本当なのかは分からないけれど、指揮系統の混乱(大尉が最初指揮を任されていたのに、途中から少佐が根拠もなく指示を変えてしまう)や装備などの準備不足が主な原因のようだ。

 

装備なんて、今とは全然違うので、油紙とか唐辛子で凍傷を防ぐとか、水が凍って飲めないとか、おにぎりも凍って食べられないとか、考えただけで倒れそう。食べてないのに、徹夜で歩かされたり、寝不足と吹雪と疲労で、途中発狂してしまう人の描写もある。明らかに無謀な指示でも上官の命令には背けないまま多くの人が亡くなってしまった。戦闘で亡くなるのではなく、訓練で亡くなるのだから遺族感情も相当強いものだったと思う。

 

小説内で、最後、この部隊を指示した少佐は自分の責任だと言い、自殺している。責任を認めている、この部分だけでも救いだと思う。今の世の中、政治家が自分の責任を認めないまま、逃げ切ろうとしたり、人に押し付けたりするけれど、(小説だけど)この時代は少なくとも、上に立つ人が自分の責任を自覚するということは当然の時代だったのかな。人の生死が関わった問題と、お金の問題では重さが違うから、現代では逃げ切ろうという心理になるのか。

 

もう一つ意外だったのは、遺族への対応は思ったよりていねいだったようだ。訓練中の事故だから、と遺族への説明などあまりしないのかな、と思ったけれど、国民感情の軍への反発が大きくなるのを恐れて、そこはきちんと対応するような指示が出ていたようだ。ただ、見舞金のようなものは階級によってかなり違ったのは気の毒。

 

小説では、原因を作った少佐(歩けなくなった)を周りの兵士が皆で運んで、周りの兵士から死んでいったような描写もある。本当だったらやりきれないだろう。

 

作者自身が気象学者で、冬山登山もする方だったようで(後書きによると)、雪の中の描写はその寒さや困難さがが想像できるようですばらしかった。

 

映画化もされているようで観てみようと思う。