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 ガーゴイルは決して小さくない。その身長は二メートルに近く背中から飛び出た羽根を入れればさらに大きく見える。そのガーゴイルの後ろに立って、頭がはっきりと晃たちに見えるのだから、そこに現れたものは三メートル近くの身長のものなのだ。
 頭に二本の曲がった角がある。金属の鎧のような胸当てをつけている。そこまではっきり見えた。それほど大きいのだ。
「ミノタウルスか」
 ランセルが叫んだ。
「いえ、正確には迷宮のミノタウルスです。かなり厄介です。それにしても」
 晃がそう言っている間も、斧が縦横無尽にガーゴイルを蹴散らしていた。やがて、ガーゴイルは道を開け、晃たちからも離れて行った。晃たちを囲むようにガーゴイルの輪が出来上がった。
「ガーゴイルは貴方の味方ではないのですか」
 グリフォンに騎乗している晃と同じぐらいの大きさの魔物は、その声に斧を振る手を止め、その斧を肩に担いだ。そして、晃をじっと見つめた。
「お前はあちらの世界の人間に見えるな。間違いないだろう。あちらの世界の少年よ、お前はおかしなことを言う。お前が乗る、そのグリフォンは命ないものだ。お前が組み上げただけの無機物の集合体だ。このガーゴイルも同じだ。こいつらは、ただの石だ。感情どころか命さえないものだ。壊れたら造ればいい、それだけのものだ」
「しかし、宝を守るために動いている」
「ドアは侵入を防ぐための道具だが、だからそれを健気と言って壊さないか、叩かないか。人間は愚かしい。命ないものを命あるものと同じように錯覚する」
 晃はグリフォンを宥めていた。戦闘的なグリフォンは目の前の強敵と闘いたがっているのだ。これが命ないものだろうか。晃には理解出来なかった。
「それにしても、狼に、あちらの人間、そして、誇り高きはずのエルフの娘までもが盗賊とは、世の中は相当に変わったようだな」
「盗賊ではありません。ボクたちは地下都市への近道として迷宮を利用しただけなのです」
「匂いに敏感な狼と風を知るエルフがいて、道に迷ったとでも言うのか」
「命あるものの匂いを追いかけた。オレは確かに盗賊だが、こいつらは違う。そして、オレも理由があって、こいつらに付き合っているのであって、盗みの目的は今回にかぎってはない。まあ、そんなことを言ったところで迷宮の番人が信じるとは思えないがな」
 ランセルも戦闘の準備に入っていた。しかし、ランセルには戦略がなかった。これだけのガーゴイルに囲まれていては逃げることも出来ない。もし、目の前のミノタウルスに勝てたとしても、そこまでだった。その上、迷宮のミノタウルスとなれば、獣に騎乗しての四対一でも勝てる見込みはほとんどないことをランセルはよく知っていたのである。
「迷宮のミノタウルス。ボクは貴方に決闘を申込みます。理由はガーゴイルを命ないものと決め付けて殺したこと」
 晃が叫んだ。
「何を」
 ランセルはそれに驚いて叫んだ。
「迷宮のミノタウルスは決闘には応じなければいけないのです。宿命を背負うものだからです。そして、侵入者の目的が盗みではなく決闘なら、未届け人は帰さなければいけないのです。つまり、三人はここから出られるのです」
「そんなことしたら晃が」
 今度はアレジーが叫んだ。
「もう無駄です。決闘は宣言があった時点で成立してしまいます」
 ガーゴイルは晃の言葉が分かっているかのように大人しくなった。慌てなくても闘えることは決定した、と、そう判断したかのように見えた。しかし、ミノタウルスに言わせればそれも人間の錯覚なのかもしれないが。
「残り三人は未届け人です。よろしいですね」
「ふん。仕方ない。お前たちは見届けて帰るがいい」
 ミノタウルスが言い終わらない内にガーゴイルは走り、そして飛んだ。
 最初の一撃はミノタウルスの斧だった。五メートルは飛んだと思う、その高さに斧は届いていた。しかし、晃はそれと分かっていたのか、斧が降り上がる手前でガーゴイルの向きを変えていた。向きを変えながら剣を斧にあてたのである。それは攻撃というよりは闘いの宣言として、互いの武器を合わせた、と、そうした行為のようだった。