作者のブログ

作者のブログ

ブログの説明を入力します。

Amebaでブログを始めよう!
 晃はこれで死ぬのだと覚悟した。しかし、斧は晃には当たらなかった。晃と斧の間にグリフォンが飛び込んだのだ。羽根がもげ落ちた。グリフォンは床に倒れ込んだ。そして、そのまま動かなくなった。
「リッド」
 今度はアレジーではなく晃が悲鳴にも似た叫び声を上げた。
「なんと」
 ランセルの背中への体当たりに状態を揺らすこともなくミノタウルスが呻いた。呻いたのはランセルの体当たりのためではなく、目の前で起きた信じられない光景に対してであった。
「闘争だけを記録させられているはずの獣が主人を守って自らを滅ぼすとは」
「だから言ったのです。作られたものには命があるのだと」
 晃は剣を構えた。グリフォン抜きにミノタウルスと闘うなど無謀なことであった。しかし、晃にはその判断は出来ていなかった。
「止めだ」
 ミノタウルスが叫んだ。攻撃体勢に入っていたランセルやアレジー、そして、思わず翼豹を降りてしまったロウガの動きが止まった。ミノタウルスの声には、そうした力があるのだ。
「オレの負けだ。あちらの世界の少年。戦闘ではおまえは負けたが、しかし、理論においておまえはオレに勝った。おまえは作られし動くものにも命があり、意思があることをオレに証明した。この迷宮のミノタウルスを負かしたのだ。負けたからには、オレはおまえに従う。迷宮の宝物庫を開こう」
「そんなものは要りません。ただ、出口の正確な位置を教えてくれればいいです。何がなんだか分からないけど、ボクたちの目的はそれだけなんですから」
「このグリフォンをどうするつもりだ」
「仕方ないです。残りのものだけで、やれることをするだけです」
「分かった。まずは、これだ」
 ミノタウルスは歩いて壁のひとつに近寄ると、その壁を斧で叩き割った。壁は崩れ、部屋が現れた。
「ここは、おまえたちの言うところのドックというやつだ。そして、ここ」
 さらに別の壁も同じように斧によって破壊した。そこにも部屋が現れた。
「ここは、ただの部屋だ。しかし、水もあれば獣の食べ物もある。残りのものは、ここで静養するといい。あちらの世界の少年。このグリフォンを直して来るといい。その時には、このオレが出口を教えてやる」
 そう言うと、ミノタウルスは倒れているグリフォンを抱え上げた。
「信じられん。作られただけの命のない獣。そんなものが本当に自らの意思で主人を助けたりするものだろうか。そもそも、命というものが、こいつにあるのだろうか」
 そんなことを呟きながら、ミノタウルスはグリフォンをドックに運びこんだ。
「晃」
 ロウガが不安そうに呼びかけた。
「すぐに戻る。少し、ほんの少しだけ待ってて」
 晃はミノタウルスに続いてドックに入った。不思議なことに、晃が部屋に入り、替わりにミノタウルスが部屋から出て来ると、壁は元の状態にもどっていた。
「おまえたちも休むといい。もっとも、盗賊よ。宝を見つけたいなら、部屋には入らずに、このまま、ここにいたほうがいいがな」
 ランセルは、とんでもない、と、言わんばかりに両手を上げ、そして、壊れたドアに向かった。ランセルの後ろをアレジーの一角ペガサスがついて行く。ミノタウルスはロウガを片手で掴み上げると翼豹に乗せた。
「小さな狼よ。おまえは王になるものだな」
「違います」
「違うものか。迷宮のミノタウルスには分かるのだ。しかし、おまえの王への道は決して平坦ではないぞ」
 そう言って翼豹の尻を軽く叩いた。翼豹はゆっくりと一角ペガサスの後ろを歩きはじめた。