呼んでいるのは???
子どもの頃、父にこっぴどく叱られたことがあった。
チャンネル争いから弟とけんかをして噛み付かれ、泣いていた時のことだ。
弟が悪くても決して手出しをせず、叩かれたり噛み付かれたままにしている私を、姉なんだからもっとしっかりするようにと叱られた。
私の次は弟の番。ひざまずかされて怒られていた。
私はと言うと、弟の後ろで泣きべそをかいていた。
すると、表から父の声がする
「父ちゃんは草履がなくて困っているよ。草履持っておいで。」
表を見ると髪の長い女性がなぜか宙に浮いたまま手招きをしている。
「草履がないから帰れないよ。早く、早く」
ー行かなくちゃ!!ー
頭の中が真っ白になった。
私は夢中で父の草履(しかもなぜか片方だけ)をつかみ、必至で走った。
走っても走っても手招きする女性に近づくことはできない。
その頃家では、隣りの叔母さんがあわててやってきた。
お宅の娘さんがすごい勢いで表を走っていったというのである。
玄関を見ると、父の草履だけが無くなっていた。
異変に気付き、母が私の後を追いかけてきた。
走っても走っても子どもの私に追いつかない。
ふと、向こうから男性がやってくるのが見えた。
「その子をつかまえてー!!」
やってきた男性は私をつかまえようとした。
ブンッ
私は子どもとは思えない力で男性を投げ飛ばしていた。
その後、私は近所の橋まで走り続け、欄干に上ろうとしたところを母に捕まり、お尻を叩かれ我に返り泣き出した。
欄干の先には壕と呼ばれる穴があり、戦争の頃の骨がまだ残っていた。