私があのおばあさんに出会ったのは、空港だった。
チェックインを済ませ、まだ搭乗時間まで余裕があったけれど、
特に買い物などする気にもならず、ただ椅子に座り待つことにした。
そんな時に私の視線を引きつけたのが、
奥の方から旅行バッグ片手にやってきた彼女だった。
私だけでなくて、幾人かの周りの人達も
彼女にちらちら視線を注いでるのがわかった。。彼女の手元に。。。
全ての指に大きな指輪をはめているのが凄く印象的だった。
それに大きなイヤリング、何重にもつけたネックレス。ブレスレットも同様、いくつもつけているから、彼女がバッグもったその手を動かすたび、高価な音が響いて来る。
まるで魔法使いみたい。。。
とおばあさんには悪かったけれど、
正直その時そう思ってしまった。
どちらかと言えば派手目で、奇抜な服装をした彼女は、すごくおしゃれで、
大きな瞳がとてもチャーミングな白人のおばあさんだった。
彼女は近くに居た、日本人の家族連れに何か尋ねているようだったけれど、
その家族は言っていることがよく聞き取れなかったのか、それとも日本で見慣れない奇抜な格好に少々威圧されてしまったのか、困った表情と苦笑いをうかべて彼女から去って
行ってしまった。そこに残された彼女の笑顔が一瞬消えたけれど、それでもめげず、
今度は新聞を広げて座ってる男性に話しかけた。ところがその男性はおばあさんのに問いに耳を傾けるどころか、無視。新聞を広げたまま、顔さえ彼女に向けなかった。一度取り戻した彼女の笑顔もすっかり消えてしまった。確かに私も彼女に突然話しかけられたら、戸惑ったかもしれない。。。でも無視は酷すぎる。。そんな想いで彼女を遠くから見つめていた私だったが、その時彼女とぱっと視線が合った。酷すぎる。。なんて、さっきまで思ってた私はやはり自分勝手で、彼女と視線が合ったとたん、何故かすぐにその視線を逸らしてしまった。彼女のヒールの音が私に近くなって、やはり、私のもとへやって来た。
話しかけられて、見上げると、彼女はあの満面の笑顔で私の顔をのぞきこんだ。まだ
やや戸惑いはあったけれど、私も笑顔を返さずには居られなかった。少し引きつっていた
かな。。。どうやら、彼女は搭乗口ゲートまでの道がいまいち確認出来なかったみたい。彼女のチケットを見せてもらうと、行き先は違うけれど、搭乗時刻は私とほぼ同じ。
お互いの搭乗時刻に近付くまで、彼女は私の隣に座り 色んな話をしてくれた。
彼女は一人、フランスから日本に旅行に来ていたこと。
ちょうど去年の、今頃も日本に来たこと。
一人旅が好きなのかと尋ねたら、彼女はちょっと寂しそうに答えた。
去年は夫と来たのよと教えてくれた。
彼女の夫はもういない。日本を旅行して、帰ってから何ヶ月目かに天国へいってしまった。
だから、日本は二人の最後の思い出の旅地だって。
そう話してくれてる おばあさんの横顔がその時すごく、弱々しかった。
おばあさんに話しかけられる事を、ほんの数分前、本当は躊躇していた事、
心の中で彼女に済まなく思った。
ごめんね、おばあさん。もう少しで、おばあさん達の思い出の地で、不快な想いをさせて帰らせてしまうところだったよね。
突然、彼女が財布から一枚の写真を取り出して、私に見せてくれた。
ハンサムで優しそうなおじいさんが一人立っていて、
おじいさんの後ろには一面のひまわり。
自宅の庭はヒマワリ畑になっていて、夫の自慢の庭だったと教えてくれた。
ひまわりは日本語でなんて言うのかしらと聞くので
と 私はメモの切れ端に書いて発音した。
私の真似をして発音するうち、彼女はすっかり元の笑顔になった。
彼女をゲートに送り届けて、私達は別れた。
ほんのわずかな時間の合間であったけれど、
あの おばあさんとお話したことは、未だに忘れられない。
あの日以来、私にとって ひまわりは、大好きな花であるのは、いうまでもない。