タイ・バンコクのチャイナタウンにあるヤワラートという猥雑な街の路地裏を進んだ先にある、まさに暗黒街の様相を呈したエリアを、タイの精通者と共に真夜中徘徊した事がある。

とある古びたビルの入り口付近では、半裸の男達が短パンの腰部分に無造作にピストルを差し込んで、生ぬるい夜風に当たりながら、何をするでもなく錆びたベンチに腰を下ろしていた。そして、完璧に他所者の雰囲気を纏った俺の顔を、訝しげに覗き込むのだ。

男達の目はどれも充血していた。

月明かりの欠片が忌々しく散らばった不気味な路上には、観光客どころか誰も歩いてなどいないし、肝心な生活音は微塵も聞こえない。

雑居ビルの何処からか、我々侵入者の行動を音も立てず、一方的に見ているかのような不気味で冷たい視線を感じながらうろついた事を、不意に札幌の市場の片隅みで思い出したのだった。