閉鎖病棟にある慢性期統合失調症で長期入院している中年女性の患者さんがいた。
20前後で発症して入退院を繰り返し、今回はいつからいるのか分からん、もう病院が家みたいな状態になっている方だ。
慢性期欠陥状態にあり思考は解体しており、疎通は困難。緊張が強くジョッキリ同じ姿勢を取り続けるので着替えや移乗も一苦労。食後しばらくはホールに座っていられるが、じきに「かえるー、かえるー(個人情報保護のため改変)」などと壊れたおもちゃのように大声を上げて帰室を要求し続け、かなり耳につくので他患者にちょっかい出されたり食ってかかられたりすることもある。帰室後は畳の上でほとんど動かず臥床している。褥瘡から骨盤内感染をきたし3次救急病院に緊急転院したこともあり、その時からストーマ造設だ。
自分が主治医ではないので詳しくは分からんが、処方はジプレキサ20mgくらいだったか。
デパケン、テグレトールくらい試してみりゃいいのにね。あれはまさに思考と情動がショートしちゃってる感じだ。自分ならさらにトピナ、カタプレス、インデラルも候補にするだろう。
まあそれはさておき。
その患者さんがある日の未明の巡回時、枕元に緑のゲロを吐いていたところを発見された。その前の晩飯は全量食べたらしいがすべて戻した模様。
その後も昼までに2回ほど緑色の嘔吐をした。朝食は食べず。排便は今朝軟便中等量あり。
意識はどうなのかと看護師に聞いてもあまりはっきりした答えが得られない。まあ元々疎通の難しい方ではあるが。呼びかけるとちらりとこちらを見て若干口を動かすが、発語なし。そういえば今日はあのやかましい「かえるー、かえるー」がない。
従命が全然入らないので四肢麻痺や眼球運動の評価がまともにできないが、明らかな脱力や顔貌左右差、瞳孔不同、眼振はなく、対光反射迅速。(そういえば疼痛刺激で逃避運動するか評価してなかった汗)
腹部やや膨満でグル音は亢進、明らかな圧痛部位はなさそうだ。
既往に高血圧とは書いてないが、血圧変動が大きくSBP160台になることが時々ある。低い時は110台。診察時は180なんぼと高値。脈は普通で洞調律、呼吸はroom airで安定している。
当初「緑のゲロ」というワードに引っ張られてそちらばかり気にしていた。緑のゲロねえ。胆汁性ってことか?十二指腸乳頭以下の閉塞機転?いやでも便は出てるしなあ。あとMRSA腸炎だか何だかでも緑色便と習ったような…(うろ覚え)。
ともかく腹に感染か通過障害か知らんが何かが起こって、それで具合悪いから昏迷になりかけてるのかな?と。元々緊張がちな人だし。
というわけで採血、吐物と便の培養をオーダーしつつ、腹部XPとCTを撮影。どうせ腹撮るならついでに脳卒中の除外のため頭も撮っておこう。
結果。
なんと脳出血でした。たぶん左頭頂葉皮質下の。どっひゃ~。
分かりやすく「突然の頭痛、吐き気」とくれば「中ったかな?」と疑うのは難くないが、疎通やADLのよくない患者さんの場合、その瞬間は気付かれず、すでに吐いた後のところを巡回で発見されるということが起こりうる。しかも本人に聞いても頭痛や吐き気の有無やいつからかなどがはっきりしない。
その場合、絶対に精神症状であると断言できない限り、頭蓋内器質性疾患の検索を十分に行わなければならないといえる。
ある症状が精神症状であるということは、器質性の病態が否定されて初めて言えることだ、という診断学の基本を改めて思い知らされた。
たまたま放射線技師さんがいる日じゃなかったら見落としてたな。
久々に冷や汗かいたよ…(;´∀`)
ある主治医不定で来れる日来れる日に受診している適応障害型うつの若い男性が自分のところに回ってきた。
初診は半年ほど前でレクサプロ10mgとナウゼリン10mgの処方。本人曰くナウゼリンは「よく分からないけど、薬の副作用を予防するだとか何とか」で出されたとの事。
その後別の医者に心気症状を訴えセパゾン2mg、意欲低下を訴えサインバルタ20mgを追加されている。
1ヶ月処方だが、前回の受診は1月半ぶり。記載はこうだ。
「薬を正しく飲めていない。服薬遵守するよう指導。1ヶ月分Do処方。」
見ればその前も前の前も、受診間隔が空いている事が度々指摘されている。
睡眠は取れている。体重は変わらず。中肉中背。
繊細な印象でちょっと応答が堅苦しく、まあ根っこASDかな~という印象。
現処方:
レクサプロ (10) 1T / 1x眠前
ナウゼリン (10) 1T / 1x眠前
セパゾン (1) 2T / 2x朝夕
サインバルタ (20) 1C / 1x夕
いやいや。ちょっと待ておい。
「服薬遵守するよう指導」じゃねえんだよと。
何で飲めてないのかってことだよと。
まあこの処方も自分的にはナンセンスなんですけどね。
まず若者に十分な必要性の評価がされることなく半年も漫然とドーパミンブロッカーが出されているのがいただけない。食思不振があるならともかく。
それでレクサプロとサインバルタの中途半端な併用。
急を要さないのであればまずレクサプロ増量にトライするべきだし、レクサプロじゃジリ貧だと踏んでノルアド系を足すなら、もっとわかりやすくノルアドをグイっと持ち上げるリフレックス、三環系、四環系にすべきだ。
SNRIのサインバルタを導入するなら、いつまでもタラタラ中途半端な併用を続けるんじゃなく、さっさとサインバルタ定常量一本に切り替えてしまうべきだ。
まあこれはこの患者さんが主治医不定でいろんな医者をグルグル回っているためしょうがない部分もありますが。
問題はその治療薬がちゃんと入ってないことへのアクションがろくにないことだ。
今までの診察医はどこに目エつけてんだ。そう思いつつ一体どういうことか本人に聞いてみたら、週5で夜勤のバイト(ファーストフード店)をしてるって言うじゃないですか。
で、「(バイトしてるので)寝ないから」という理由で、バイトの日は律儀に眠前のレクサプロとナウゼリンは飲まず、サインバルタとセパゾンだけ飲んで出勤していたと。医者にどうすればいいか尋ねることもせず。律儀に食後少し時間を置くので飲み忘れることもたまに。うーんこの辺りもASD的。
それで帰ったら食べずに寝るので朝のセパゾンも飲まず、夕方まで寝たりゴロゴロして過ごし、夕の一食だけ食べる生活。元々小食で朝は食べず、一食になっても日中動かないからか体重は変わらんと。
謎は全て解けた。主因は飲み忘れたんじゃなくて、生活パターン上飲めなかった(飲まなかった、とも)ことにあったのだ。
結局どうしたか?
答えは簡単だ。一番確実に飲めるタイミングに集約すればいい。
レクサプロ (10) 1T / 1x夕
サインバルタ (20) 1C / 1x夕
ナウゼリン (10) 1T / 1x夕
セパゾン (1) 2T / 2x朝夕
サインバルタはDI上朝食後投与の薬だが、わが地域ではありがたいことにこれで十分通る。睡眠の質に影響する可能性はあるが、ちゃんと入らないより遥かにマシである。
バイトから帰宅後のセパゾンは飲んでも飲まなくてもよし。多少は安眠につながるかもだが。
上述のレクサプロとサインバルタの中途半端な併用と、要るのか分からんナウゼリンが残ってしまってるが、初めましてであれもこれもいじるわけにもいかないので、まずはこれで服薬状況と調子の変化を見て次回以降検討とする。
臨床やっててしばしば思うのは、問題が発生した時、治療がうまく入っていない時、「なぜなのか」「現実面でどういう手が打てるか」ということに意識を向ける医者が驚くほど少ないってことだ。
この患者さんの場合、「寝る前の薬は(夜)寝ないなら飲んではいけない」「食後の薬は食べないなら飲んではいけない」と思い込んでいたという問題があった。
どの薬が寝ないなら飲んではいけないのか、空腹時に飲んではいけないのかということについて、我々が思っている以上に患者さんたちは知らないのだ。そもそもそれが眠剤なのか抗うつ薬なのか知らなかったりする。
精神疾患を持つ患者さん、知能や心理発達上の問題がある患者さんなら尚更、それが不適切な思い込みや、疑問点を医師に聞くといった適切なコミュニケーションができず、服薬コンプライアンスの問題につながりやすい。
医療従事者の物差し、健常者(というと語弊があるが)の物差しで患者を見るなってこった。
薬を正しく飲めてないならなぜなのか、どういう環境でどういう生活を送っているのか尋ねる。服薬の確実性を上げられる行動力学上の手だてがないか考える。
この患者さんの場合は一家揃って確実に食事をとる夕食後にまとめ、食卓のすぐ近くに薬を保管し手元に準備してから食べ、食器を下げる前(もしくは下げた直後)に服薬する。本来「食後」とは食後30分ほど置いてから飲むことを指すが、この際ろくに飲めないよりは(ry。
各薬の効能を改めて説明し、空腹時に飲んで胃腸を痛める薬はないが、レクサプロとサインバルタは人により悪心などが出る可能性があり、その場合は極力何か胃に入れた上で飲むよう指導する。
これだけのことじゃんね。
これだけで一円もかけずに患者の状態をよくすることができるかもしれないってのに。
頭ごなしに「お医者の言うことをちゃんと聞きなさい!」と押し付ける前に、「なぜ?」「どうすれば?」を考える。
その視点、見失わずにいたいよね。
適応障害型うつ病 新型うつ病 服薬アドヒアランス
今年の猛暑ですでに10人以上の死者が出ている。今週、来週もこの猛暑は続くらしい。
ところが私の勤め先に来る患者さんたち(まあ半分くらい農家のジジババかその子供である)は、みんな口をそろえて家にエアコンなどない、生まれてこの方扇風機だけで過ごしてきたと言うのだ。特にこの地域のご老人は寒がりで、扇風機すらつけたがらず、家族がつけると怒る人もいるくらいだ。
で、何の疑いもなく今年も同様に、日中は畑仕事に精を出し、午後はその扇風機しかない家で過ごそうというのだ。アホか死にてえのかってな話である。
しかしそんな人たち――田舎の一次産業のジジババとその子供――に今からエアコンつけろと言ったところで聞くはずはなく、お金もない。
そこで家にエアコンのない患者さんたちに指導しているこの夏の猛暑の過ごし方を、一部修正・追記して以下に示す。
1. 水分はスポーツドリンクを毎日2杯は飲め。糖尿の人もそれくらいは飲んどけ。OS-1、次にポカリが最適だが、なければとにかく何でもいいから今すぐ買い揃えろ。あれがよくてこれがダメとか細かい噂は気にするな。
2. 1に加えて麦茶1ℓあたり1~2つまみの塩を入れて飲め。とにかく十分飲め。喉が乾いたら飲め。麦茶はミネラル豊富で熱中症予防に効果的とか何とか宣伝されてるが、実は最重要なナトリウムつまり塩分はスポドリとかよりはるかに少ないため単体では不十分。心臓に持病がある人、腎臓病でカリウム制限をしている人は主治医と相談だが、それでも一日5回はトイレに行くことを目標に。
3. カフェイン(麦茶以外の緑茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、栄養ドリンク、魔剤)、酒はなるべく控えろ。利尿作用のため飲めば飲むほど逆効果になりうる(細かい話は置いておく)。麦茶はカフェイン入っていないのでセーフ。ノンカフェインとかなんとか書いてあるものもまあいいでしょう(細かいことはry)。
4. 無理して動くな。極力涼しい所で過ごせ。デイサービスやショートステイがあるなら行っとけ。とりあえず行ってだるかったら休んどけ。農作業も極力無理するな。今年の稼ぎより今日の命。やるんなら涼しいうちに、日よけとか首濡れタオルとか装備の上、先述の塩麦茶を持っていくこと。携帯…がなけりゃ家族に行き先を告げてから出ること。
5. 梅干しを毎食のメニューに入れろ。あとはとにかく果物でも素麺でも食えるもん食え。塩分控えめとか今は気にするな。普段制限を指示されてる人だけ主治医に聞け。
6. きついと思ったら休め。尋常でなくしんどいと思ったらかかりつけか近くの内科に電話。頭がもうろうとする、動けない、喋れない、何も喉を通らないとなったら119番。
情報量が多すぎてもダメなのでこのくらいで。
まあこれだけ言っても毎日緑茶飲んでる人は飲むし、酒飲んでる人は飲むでしょうけど、少しでも節制してくれればそれだけリスクが下がるはず。
しかしほんと、びっくりするくらいのエアコンない率だったよ。今年はうちのお客さんで一人くらい死人が出ても全然おかしくないと思うね。
言うだけならタダ。せめてノーコストでできる回避策だけは講じておこうと思う。
熱中症 熱射病 日射病 脱水症
