皆さん、こんにちは。
リーダーズ総合研究所・講師の板野です。
会社法出題予想第3弾は「機関」です。
機関は、株式会社の設立及び株式と同様、令和5年度も出題が予想される重要テーマですが、過去問を分析すると株式会社の設立と同様、比較的解答しやすい問題が多いことがわかります。
昨年度出題された「会計参与」に関する問題もテーマとしてはマイナーな分野だと思いますが、各肢を詳細に検討すると肢5以外は全て株主総会以外の機関の設置及び役員等の選任及び解任(以下、機関総則)に関する条文知識です。
これまで全3回にわたって会社法の出題予想をしてきましたが、会社法は毎年度4問(+商法1問)出題されているところ、近年は憲法において単純な条文問題(統治)が影を潜め、判例に関する現場思考型の問題が出題され受験生を悩ませているので、会社法は最低ラインとして株式会社の設立1問及び機関1問(2問出題される場合は1~2問)を正解すべき(試験委員も商法・会社法については2~3問/全5問の正解を想定して作問している)と感じました。
令和5年度行政書士試験まで残り約1ヶ月となって超直前期に突入し、会社法まで到底手が回らない受験生も多いと思いますが、上述の通り、最低限として株式会社の設立及び機関総則だけでも学習しておいた方が良いと思います。
その場合、いきなり条文知識を詰め込んでも頭の中がぐちゃぐちゃになって会社法の勉強が益々嫌になるだけなので、まずは会社法の全体像(フレームワーク)を抑えておくことが肝要です。そのような受験生は以下の動画を是非視聴して下さい。
なお、第3弾についても動画配信の予定はなく、本ブログでの記事解説のみとなりますので予め御承知おき下さい。
株式会社「機関」に係る出題の特徴
過去10年間の出題傾向
●毎年度1~2問出題される
⇒ 令和元年度以降2問出題される傾向
●全て条文に関する問題
⇒ 平成25年度の出題以降、判例に関する問題(肢)は出題されていない
●正誤判断問題が主流
⇒ 組合せ問題(全15問中5問)が少なく個数問題も出題されるので、全肢検討が必要となり得る
●テーマに関わらず出題されるは基本論点のみ
⇒ 機関総則(機関設計及び役員等の選任及び解任)の知識があれば正解できる問題が50%以上
論点別出題条文履歴表(機関)
(傾向)
機関総則に関する出題が集中していることがわかる
※出題数には、機関について肢レベルで出題された問題も含めている
会社法条文別出題実績(機関総則+αのみ抜粋)
機関総則に関する知識だけで解ける!
①1肢の正誤判断のみで正解できる問題(全3問)
・平成27年度行政書士試験問題39(肢2)
・平成30年度行政書士試験問題39(肢3)
・令和元年度行政書士試験問題40(肢3)
②2肢の正誤判断で正解できる問題【組合せ問題】(全1問)
・令和4年度行政書士試験問題40(肢ウ・エ)
⇒ 以下で解説
③正解肢を2択まで絞り込める問題(全2問)
・平成28年度行政書士試験問題39(肢1・3・5)
・令和3年度行政書士試験問題39(肢ウ)※
※400条の知識があれば正解できる問題
計6問/全10問(株主総会を除く)【60%】
⇒ 一見難しそうな機関に関する問題も機関総論の条文知識(+α)だけで50%以上解ける!
(令和4年度行政書士試験問題)
問題40 会計参与に関する次のア~オの記述のうち、会社法の規定に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア 公開会社である大会社は、会計参与を置いてはならない。(326条2項)
イ 公開会社ではない大会社は、会計監査人に代えて、会計参与を置くことができる。(328条2項)
ウ 会計参与は、株主総会の決議によって選任する。(329条1項)
エ 会計参与は、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければならない。(333条1項)
オ 会計参与は、すべての取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。(376条1項)
1 ア・イ 2 ア・エ 3 イ・オ 4 ウ・エ 5 ウ・オ
(解法のポイント)
テーマはマイナー論点の「会計参与」であるが、役員等の選任の条文知識(329条~338条、肢ウ・エ)を使えば、会計参与に関する各則の条文知識(374条~380条、肢オ)がなくても正解を導ける問題
⇒ 問題のテーマ(本問では会計参与)に惑わられず、各肢の内容をしっかり検討することが重要!
最近の法改正
(令和元年改正)
1.株主総会に関する規律の見直し
(1)株主総会資料の電子提供制度の創設(325条の2~325条の7)
(2)株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備(305条4項・5項)
(他資格での出題実績)
・令和5年度司法書士試験問題(午前の部)第30問肢エ
2.取締役等に関する規律の見直し
(1)取締役の報酬に関する規律の見直し(202条の2、236条3項・4項、361条1項・7項、409条3項)
(2)会社補償に関する規律の整備(430条の2)
(3)役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備(430条の3)
(4)業務執行の社外取締役への委託(348条の2)
(5)社外取締役を置くことの義務付け(327条の2)
(出題実績)
・令和3年度行政書士試験問題39肢ウ
(補足)
平成26年改正ではコーポレート・ガバナンス強化の観点から、上場会社等に社外取締役を置くことが相当でない理由の説明を義務付けていました(旧327条の2)が、令和元年改正により、上場会社等には社外取締役を置くことが義務付けられました(現行327条の2)。この点に関し、行政書士試験でも関連する知識が問われています。
・令和3年度行政書士試験問題39肢ア
・平成30年度行政書士試験問題39肢3
3.社債の管理等に関する規律の見直し
(1)社債の管理に関する規律の見直し
①社債管理者制度の創設(714条の2~714条の4、737条1項)
②社債権者集会の決議による元利金の減免に関する規定の明確化(706条1項)
③社債権者集会の決議省略(735条の2)
(2)株式交付制度の創設(2条、774条の2~774条の11、816条の2~816条の10)
(3)その他
①議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由の明文化(311条4項・5項)
②会社の支店の所在地における登記の廃止(930条~932条)
③成年被後見人等についての取締役の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備(331条1項、331条の2)
(他資格での出題実績)
・令和4年度司法書士試験問題(午前の部)第31問肢ウ
会社法出題予想(機関編)
●機関総則
(優先順位1)役員の選任等に関する問題
・令和元年度行政書士試験問題40
・(他資格)令和4年度司法書士試験(午前の部)問題31
●機関各則
(優先順位2)取締役に関する問題
・平成29年度行政書士試験問題39【取締役の報酬等】
・(他資格)平成27年司法試験予備試験〔民法〕問題27【総合問題】
(補足)
・行政書士試験では、かつて「取締役」は頻出論点(平成25年度、28年度、29年度)であったが、令和元年度(問40肢5)に取締役の競業及び利益相反取引の制限に関する条文知識が肢レベルで出題されて以降、一度も出題されていない
・なお、取締役会については、令和元年度に大問で出題されている
他資格の問題にチャレンジ!
令和4年度司法書士試験問題
問題31 取締役に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 会社法上の公開会社でない株式会社においては、取締役が株主でなければならない旨を定款に定めることができる。(331条2項)
イ 監査等委員会設置会社において、監査等委員である取締役が5人いる場合には、そのうちの3人以上は社外取締役でなければならない。(331条6項)
ウ 成年被後見人及び被保佐人は、取締役となることができない。(331条1項)【改正論点】
エ 監査等委員会を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。(332条7項2号)
オ 株主総会の決議によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合であっても、その後の株主総会において当該取締役について定められた報酬を無報酬と変更する旨の決議がされたときは、当該取締役は、無報酬とすることに同意していなくても、報酬の請求権を失う。(最判平4.12.18)
1 アイ 2 アエ 3 イウ 4 ウオ 5 エオ
(解法のポイント)
●肢イ・ウの正誤判断のみで解答できる問題
⇒ 肢イを○と判断した時点で正解肢は「2」「4」「5」に絞られ、肢ウが×と判断できるので、正解肢を「4」と選択できる
●肢オはやや細かい判例知識ですが、肢ア~エは機関総則に関する条文知識なので本試験で出題された場合には正解すべき問題です。
正解:4
平成27年司法試験予備試験問題
〔問題21〕
取締役に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.特別取締役のうち,少なくとも1人は,社外取締役でなければならない。(373条1項2号)
イ.代表取締役は,3か月に1回以上,自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないが,あらかじめ他の取締役の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは,取締役会への報告を省略することができる。(372条2項、363条2項)
ウ.取締役が自己のために会社とした取引によって会社に損害が生じたときは,その取締役は,任務を怠ったことがその取締役の責めに帰することができない事由によるものであることを証明しても,その取引に係る任務懈怠責任を免れることができない。(428条1項、356条1項)
エ.監査役設置会社においては,取締役が法令に違反する行為をするおそれがある場合でも,その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときでなければ,監査役は,その取締役に対し,その行為をやめることを請求することができない。(360条3項)
オ.社外取締役を株主総会の決議によって解任するには,正当な理由がなければならない。(339条1項)
1.アイ 2.アオ 3.イウ 4.ウエ 5.エオ
(解法のポイント)
●肢イ・ウの正誤判断で解答できる問題
⇒ 肢イを○と判断した時点で正解肢は「2」「4」「5」に絞られ、肢ウが×と判断できるので、正解肢を「4」と選択できる
●機関各則(本問では取締役、348条~361条)まで手が回っていない受験生も多いと思われ、そうした受験生には本問は難しく感じたかもしれませんが、いずれも基礎知識です。
正解:4