※ 6月23日(手術当日のこと)
夕食の少し前のこと、主治医の太郎(仮)先生が様子を覗きに来てくれました。
傷口を見せると、
「うん、綺麗だね」
と、ちょっとドヤ顔なのが楽しい。
母が摘出物を見なかったと言っていたので、ちょっと質問してみました。
(術後すぐに先生は母に手術が無事終わった旨、話してくれていたのでした)
「摘出物って見せてもらえないんですか?」
「ああ、見てもわからないと思うよ。脂肪の塊ってだけだから」
どうもガンってのはここって、はっきりわかるものではないみたいです。
「じゃ、先生はどうやって見極めて切るんですか?」
不思議になってそう問いかけてみました。
太郎先生はこういう質問にも嫌がらず楽しそうに答えてくれる人なんです。
「え~っと、昨日、マーキングしたでしょ」
はい、しましたね。胸に切る場所ってことでマジックで○を書かれました。
でもそれって、胸の皮をめくったら、見えないんじゃ……私が不思議な顔をしたからか、先生は続けて教えてくれました。
「あそこをね、あのマーキングに沿って、注射針で色素を入れていくわけ」
ほうぉ、なるほど、入れ墨みたいにするわけね。
「すると、めくってもマークがわかるでしょ。で、それに沿って切除して、その後、切除分を、マンモグラフィにかける。術前に撮った写真と見比べて同じ形に取れてるかってね」
それでか、母が「先生から写真どおりに取れてますって言われた」って言っていたのは。
「なるほど、だったら正確ですね」
私が感心した声を上げると、だろって感じで、先生がまたどや顔になりました。
「全部綺麗に取れてますってことで、確認が終わったら、縫合する。で、これからその切除した分をスライスして、培養するわけ。それで検査結果が出るのが来月と」
良かった、全部綺麗に取り切れて。目視確認できる範囲ってことだけど、今はそれで十分。 目で見えないようなミクロの世界の結果は来月ということです。
「本当にありがとうございました」
先生に丁寧にお礼を言いました。本当、ありがとうございます。面倒くさいことをいろいろ訊く患者なのに、いつもにこやかに話してくださって。
病院の夜は早くて、22時の消灯前から、テレビを観るか本を読むぐらいしかすることがありません。
しばらく窓から夜景を眺めていたら、向かいのベッドから、Aさんの寝息が聞こえてきました。
私も寝ようかな。
人生初の手術――長い長い一日でした。
ちょっぴり、手術した胸が痛みます。念のため、痛み止めを一錠飲んで眠りにつきました。