表千家の略点前および裏千家の盆略点前は、
通常の点前同様に畳の上で瓶掛や火鉢を用いることを前提に考えられているようですが、
武者小路千家の略盆点前はテーブルと椅子の生活を強く意識しており、
湯についても瓶掛という言葉は使われず、ポットを意識したものとなっています。
そのため、武者小路千家だけ成立時期が新しいように感じていたのです。
裏千家では盆の中央向こうに茶器を置き、中央手前に常のように仕組んだ茶碗を置きます。
武者小路千家では盆の中央左寄りに常のように仕組んだ茶碗を、中央右寄りに茶器を、中央手前に帛紗を置きます。
薄茶平点前で茶碗と茶器を運んで置き合わせる際の配置は、茶碗が左で茶器が右ですので、
これら盆点前が薄茶平点前を省略したものと考えると、
武者小路千家の仕組み方が最も自然であると感じます。
これは想像ですが、
表千家も裏千家も最初は武者小路千家のように茶碗を左で茶器を右という
薄茶の点前と同じ配置にしたかったのだと思います。
しかし、そうしなかったのは後々の点前に無理が生じると考えたからではないでしょうか。
実際、最初の状態で薄茶の点前に最も近かったはずの武者小路千家の略盆点前ですが、
先に進むにつれて薄茶の点前からは少し遠ざかる印象を受けます。
これは最初の置き合わせの美を求めたことの代償なのかもしれません。
逆に表千家と裏千家は、後の点前を薄茶の点前に近づけることを重視した結果、
最初の置き合わせを妥協したということではないでしょうか。
あくまで想像ですが・・・。
1.
(表千家) 茶道口に座り、盆を膝前に置いて襖を開け、一礼。
(裏千家) 茶道口に座り、盆を建付け(柱側)に置いて襖を開け、一礼。
(武者小路千家) 茶道口に座り、盆を襖の陰に置いて襖を開ける。
2.
(表千家・裏千家) 盆を両手で持って点前座に進み、盆を瓶掛正面に置く。退席。
(武者小路千家) 盆を両手で持って点前座に進み、盆を置く。退席。
3.
(表千家・裏千家) 左手に建水をもって席に入り、盆の前に座り、建水を置く。
(武者小路千家) 右手に湯器、左手に建水をもって席に入り、建水、湯器の順に置く。
4.
(表千家) 両手で盆にかけた服紗の向こうをとり、服紗をさばいて常のように腰につける。
(武者小路千家) 盆の上の帛紗を右手で取り、左手にのせ、帛紗をさばいて常のように腰につける。
5.
(表千家) 盆を両手で持って客付きにまわり、盆を置く。一礼。
(裏千家) 盆を両手で持って客付きにまわり、盆を置く。
(武者小路千家) 一礼。
6.
(表千家) 居ずまいを正し、建水を進める。
(裏千家) 建水を進め、居ずまいを正す。
(武者小路千家) 居ずまいを正し、湯器、建水を使いやすい所に置き換える。
道具を清める前まで来ました。
瓶掛を前提としている表千家・裏千家とポットなどの湯器を前提としている武者小路千家では道具の配置に違いがあるものの、それ以外は大きな違いは感じません。
道具を清めていきます。
まず、茶器と茶杓を清めます。
1.
(武者小路千家) 茶器を盆の上、手前端に移動させ、続いて茶碗を盆の中心に移動させる。
武者小路千家だけ茶碗と茶器を移動させます。
これは薄茶点前で水指の前に置き合わせてある茶碗と茶器を膝前に移動させる所作に当たると思いますが、この所作を盆の上に取り込むことは難しかったのでしょう。
薄茶点前では、まず茶碗を移動させ、続いて茶器を茶碗の手前に移動させますが、武者小路千家ではこの順序を逆転させ、茶器、茶碗の順で移動させます。
このような妥協をしつつも最終的な配置は薄茶点前と同形になるように考えられているように思います。
一方、表千家と裏千家では、この所作を省略して、直ちに茶器を清めるのですが、この時の茶碗と茶器の配置が薄茶点前と異なるという点がまた難しいところです。
裏千家で茶碗と茶器の配置を逆転させた、茶碗を手前、茶器をその向こうという配置が、後々の点前の都合であることは解る気がしますが、
表千家で茶碗を左寄り向こう、茶器を右手前に配置するのはなぜなのでしょうか。
薄茶と同様に盆の中心付近に茶碗、手前に茶器で良いような気がしてしまうのですが、薄茶で茶碗と茶器を運び出す時の配置(茶碗が左で茶器が右)と茶器を清める時の配置(茶器の手前に茶碗)の中間を採ったということでしょうか。
何か深い理由があるのかもしれません。
2.
(表千家) 服紗をさばき、茶器を清め、瓶掛手前左に置く。
(裏千家) 帛紗をさばき、茶器を清め、盆の向こう左寄りに置く。
(武者小路千家) 帛紗をさばき、茶器を清め、盆の左端に置く。
ここから、さらに三千家は異なる方向へ進みます。
表千家では茶器がお盆から飛び出しました。
お盆に対するこだわりがあまり無いのか、お盆の中で無理な点前になるくらいなら、お盆の外へということになったのか分かりませんが、
瓶掛を置けるだけの空間を想定しているわけですから、無理にお盆の中に納める必要がなかったのかもしれません。
一方、裏千家と武者小路千家では何とかお盆の中で完結させようとした苦労が伺えるように思います。
3.
(表千家) 服紗をさばき直して茶杓を清め、盆の上、右寄りに縦に置く。
(裏千家) 帛紗をさばき直して茶杓を清め、盆の手前右寄りの縁に置く。
(武者小路千家) 帛紗をさばき直して茶杓を清め、盆の右前横の縁に置く。
なぜか、茶杓を置く位置だけは三千家でほぼ同じようです。
4.
(表千家) 茶筅を茶器の右寄りに置き合わせる。
(裏千家) 茶筅を茶器の右横に置き合わせる。
(武者小路千家) 茶筅を盆の向こう端に置く。
表千家はお盆を飛び出しましたが、表千家、裏千家共に茶器が左で茶筅が右という薄茶の配置は維持したようです。
特に裏千家はこの配置に拘ったために、最初の置き合わせの配置が薄茶と異なる点を妥協したような気がいたします。
逆に武者小路千家は最初の置き合わせに拘ったために、清めた後の茶器の配置辺りから薄茶とは異なった新しい配置を考えなくてはならなくなったのではないでしょうか。
5.
(表千家) 茶碗を盆の手前へ寄せる。
(武者小路千家) 茶碗を手前端に移動させる。
薄茶と同様です。
裏千家では最初から茶碗がお茶を点てる位置にありますので、この所作は省略されているのだと思います。
6.
(表千家) 盆の上、茶杓の先の向こう側を「二」の字に清める。
(武者小路千家) 帛紗で盆の右端を「二」の字に清め、帛紗を腰につける。
表千家と武者小路千家では茶巾に置く場所を清めます。
裏千家でこの所作がないのは、薄茶の点前にそのような所作がないからでしょうか。
7.
(表千家) 茶巾を茶杓の向こう、清めた場所に置く。
(裏千家) 茶巾を盆中右横に置く。
(武者小路千家) 茶巾を盆の右端、清めた場所に置く。
8.
(表千家) 服紗を腰につけて、鉄瓶の蓋をしめる(女子は服紗で鉄瓶の蓋をしめてから腰につける)。
(裏千家) 鉄瓶の蓋をしめる。
茶筅とおじの前まで来ました。
各流派で道具の置き合わせる位置の違いがはっきり表れて興味深いです。
どこに重点を置いて考えられたかが良くわかる気がします。
表千家は茶器と茶筅がお盆を飛び出したこと以外は無理のない感じがします。
裏千家は薄茶点前を基本に小さな盆の中で完結しようとした苦労が伺えるように思えます。
武者小路千家は初めは薄茶点前に最も忠実だったはずが、点前が進むにつれて”略盆”ではなく新しい”盆”点前に進化しているように感じます。
この時点での配置は、まるで惑星の軌道図のようです。
どの点前が最も自然で美しいのか、好みの分かれるところだと思います。
この後、茶筅とおじをして、茶を点ててと進んでゆきますが、
瓶掛の扱いなど多少の違いはあるものの、基本的にはこの配置を維持し、
おしまいで最初の配置に戻るという流れですので、
この先は省略としたいと思います。
ーーー引用終わり












