一昨年の11月、第3相治験の結果で優位性を示せず、FDAへの新薬申請が果たせなかったブレインストーム社のALS幹細胞治療NurOwn、当時わたしは未だ未だ確定診断前でしたが、非常に残念な思いをしたことはそう古い記憶ではありません。その後、何故か暴落したブレインストーム社株を将来への期待半分で購入していましたが、株価はその後も落ち続け、同社株がプラスになることはありませんでした。幹細胞治療自体、ハードルが高いこともその後いろいろ調べ勉強し、私の中ではNurOwnに対しての期待度は低いものになっていました。その同社株が一昨日プラスに転じたことに気づき驚きました。何が起きたのかを調べると、同社がまたFDAヘ新薬承認を迫る動きをしているというニュースがいくつかのメディアから確認できました。ただ同社はその後追加治験を行ったわけでもなく、当時の第3相治験の統計的な分析の見直しをした結果NurOwnは実際統計的に有意であることが証明できる、と主張するものです。当時のデータの見方には誤りがあり、今回修正されたとする微妙な表現がある記事も目につきました。

 

ポイントは進行があまり進んでいない患者では、プラセボグループと比較して、進行率が大幅に低下したというものです。言い方を変えると、発症後、顕著な進行がない患者に投与した場合、進行を抑える効果があることが治験結果からわかった。というものです。同社はこれをもってFDAへ近く新薬申請を行うと発表したことが背景にあり、株価が今現在も上昇中です。

 

 

これだけでは釈然としないので、さらにいろいろ調べてみました。一昨日8月15日に同社が発表した第二四半期の発表プレスリリースの内容に目を通すと下記がわかりました:

 

ALSFRS-Rが26~35 のサブグループでは NurOwnによる治療後に統計的優位性を示したとしています。P値の値も5%未満 (p≤0.050)となっておりPバリューはFDAも統計の有効性を判断するために必要な値です。

 

さらに同社ウエブサイトにある昨年末のプレゼンビデオを見てみました。すると同社は最近バイオマーカーに注力していることが判ります。バイオマーカーとは通常疾患の有無を調べる項目として理解されることが多いですが、病状変化や治療効果の指標となる項目を測ることでも使われます。神経変性においては5項目、神経保護は7項目、神経炎症は9項目のバイオマーカーを調べた結果、NurOwnを投与した場合、プラセボ群と比較すると確実にどの指標も数字に違いが表れるとしています。

 

(バイオマーカーについて説明する同社ビデオ、リンク済み)

 

下記当方が気がついたポイント、及び意見:

 

ALSFRS-R 26~35は十分進行しているという理解です。発症初期だけが対象ということではなく、十分幅広い患者を治療できるものと考えます。

 

最近のアプローチ(当局への新薬申請の手法)として、AMX0035や徳島大学とエーザイの大量メコバラミンも同様ですが、早期の患者において有効とする統計上の優位性をもって新薬申請を進めるケースが多いことに気がつきます。

 

また先日、新薬申請がFDAに受理されたバイオジェン社のSOD1遺伝子異常の新薬であるトフェルセンは治験結果では優位性を証明できなかったものの、バイオマーカーにおいて神経変性を防ぐ数値データが得られたとするロジックで新薬申請をするアプローチがありました。今回のブレインストーム社の動きはAmlylyx 社とバイオジェン社のケースを試金石にし、それらに続いて再度挑戦するアクションを取ろうとしていることが判ります。

 

これまでも書かせていただいている通り、今のアメリカはALS新薬開発等テーマにおいて、動きが非常に活発であることは間違いありません。FDAも前向きであり、AMX0035に続こうとする新薬候補がどんどん露出してくるようになりました。FDA、大学機関の研究者、創薬メーカー、患者支援団体が一枚岩となり、現患者を救おうとする動きが過去に例のないほど活発な動きをみせてます。素晴らしいことです。

 

気がつくことはアメリカの場合はALS新薬候補をパイプラインに持つ創薬ベンチャーが何社も存在するということです。日本の製薬会社においては私がこれまで調べた限り、現在治験に進められるようなALS新薬を持つ製薬会社の話は全く存在しません(エーザイ社の大量メコバラミンを除く)。

 

他方、ブレインストーム社の本社は現在ニューヨークにあり、ナスダックに上場していますが、もともとはイスラエル発のバイオテックベンチャーです。イスラエル企業とビジネスを行った経験は当方未だありませんが、イスラエルは実は頭脳集団という理解です。欧米社会ではイスラエルは第二のシリコンバレーと認識されており、ITや兵器の研究開発において優れており、実績もあるのです。バイオテックのレベルも高いようです。実はブレインストーム社以外にも、ALS新薬の開発を進めている会社があります。Prime Cという新薬開発を粗第三相治験に進めているニューロセンスセラピューティクスという会社もあります。これについては次回紹介をさせていただきたいと思います。

 

最後に、ブレインストーム社のNurOwn、冒頭に私見を述べた通り、幹細胞治療はまだまだハードルが高いという認識が残ります。当方のNurownへの期待度は正直今のところ未だ50%に満たないところにあります。期待度の意味はFDAに認可される可能性という意味です(Amylyx社のAMX0035への期待度は100%です)。

 

一方で再生医療による治療開発を進める会社やベンチャーの存在は、ある程度筋委縮が進行してしまっている私たちには非常に重要です。NurOwnは進行を遅らせる効果を有効なベネフィットとしていますが、再生医療には機能の改善、運動ニューロンの再生が求められます。実際NurOwnの治験参加者の中には歩けなかった人が歩けるようになった。指動かずでバイクに乗れなかった人がまたバイクに乗れるようになったという事例も2年前アメリカのテレビでは放映されていました。どういうことかというと、人によっては機能改善があるという理解です。またNurOwnの治療自体も継続して行うことが前提となっています。継続することにより徐々に機能改善が果たせる可能性もあるという理解です(当然個人差もあるはずです)。私の見方は先ずは治療が開始されることが重要で、それによって治療の改善点も臨床経験やさらなる研究開発からわかるようになり、徐々にバージョンアップされ、精度や効果が向上すればいい、という考えです。イメージ的には、それらは一般的な製品の開発と似るものです。

 

根本的な治療法が確立していない今疾患してしまった私たちは、完ぺきなものを待っている余裕はなく、可能性があるものを個人の判断で試していかなければいけないという時代を生きているという理解です。今のアメリカはまさにそういう考えが主体になっており、そのためEAPといった、これまで治験が受けられなかった患者たちも治験が受けられる仕組みができたのです。

 

NurOwnについては更に多角的に新しい記事も出てくると思います。ある程度注力し、適宜また共有させていただきたいと思います。

 

 

以上です、

 

 

 

目を通した記事リンク:

 

 

 

 

 

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