先月アメリカでALS法(H.R 3537)が成立した背景には、いくつかのマイルストーンがあったはずですが、昨年7月29日に行われた下院の(日本の衆議院にあたる)エネルギー・ 商業委員会による公聴会が決め手だったと考えます。

 

アメリカで今、AMX0035の条件付き認可が現実味を帯び、時間の問題だけとなったのも、また第3治験の結果パスしなかったNurownが再び検討されることになったのも、今回の法案を作りALS法を実現させたこの議会(エネルギー・ 商業委員会のサブコミッティー)、そして公聴会を実現させたALS団体( I AM ALS ) のロビー活動、その他関係者たちのたゆまぬ努力と活動が背景にあったのです。

 

政府ウェブサイトで公聴会の全容が収められているYouTubeがありますので、シェアさせていただきます。丸一日、6時間およぶ長い会議です(ビデオの長さは9時間50分、途中約4時間休憩はさむ)。YouTube こちらです↓

 

 

結論(ポイント):

何が凄いのか? ALS法案を取りまとめるため、議会が与党、野党議員20名以上が一丸となって丸一日時間を費やし、ALS治験の問題や、現状に関しての疑問をFDA(日本の厚生省にあたる)の担当者に質問攻めにしている様子が見て取れます。真剣な議員達と、ALS患者団体だけでなく、FDA,関連機関、医師、製薬会社、介護者、がオンライン、オフラインのハイブリッドで全て参加し(コロナ過にも関わらず)、一枚岩になっていく様子がわかります。

 

議長のエシュー氏の人柄が素敵です(今の日本にこんな素敵な議員がいるでしょうか、多分いるはずです)。これだけの方たちがALS患者(他の神経変性疾患含)を救うために動いているアメリカは凄いと言わざるをえません。

 

(議長のエシュー氏 Anna G. Eshoo)

 

日本の治療研究、医療技術レベルは負けていないと思っていますが、今回の一連のアメリカ政府の動きや、ALS団体のロビー活動は日本はお手本にすべきです。そして近い将来に備えるべきです。日本も、コロナの薬を超特急で認可したのと同じように、従来の既定プロセスとは異なる方法で、ALS患者そしてその家族、またこれから患者になるかもしれない人たちのために、来るべきALS治療薬を迅速に認可できるよう体制を整備(準備)すべきです(ヨーロッパ、カナダ、そして今回のアメリカに続くべき)。そして、日本のALS団体も政府へのロビー活動を本気で強化しなければいけません。

 

さて、公聴会の見せ場のご紹介です:

 

■一部目は約3時間40分:

エシュー議長のオープニング後、国家衛生研究所のリチャード氏、ワォルター氏、またFDAのカバゾニ氏(女性)が、ALSの治療研究の現状や課題、治験アクセスに関してのそれぞれの考えを証言した後、各州からの議員(20名以上)が次々とこの3名に質問をしていきます。議員たちはそれぞれ、ALSで亡くなった友人や知人の話も持ち出して、この悲惨な恐ろしい病気をどうにか解決しろ、FDAや、国家衛生研究所は時間をかけて一体何をやってるんだ?とそれぞれの論点で、次々と各議員が厳しい質問を展開します。

 

質問の90%はFDAのカバゾニ氏に向けられています。事前に質問状など出してないことがよくわかります。最初の見せ場は、開始から41分10秒~52分40秒の部分、議長とFDAのやり取りです。議長が、FDAに「あなたの言っている、意味ある増大するベネフィットがある薬とはどういう意味か?何故治験で十分な結果を出したAMX0035を承認しないんだ?ALS患者は既に死刑宣告をされているのと同じです、どんな効果でも彼らはそれを享受し、チャレンジしたいはずだ。と、FDAに詰め寄ります。そしてFDAがまた喋り始めるのですが、それを遮り、ヨーロッパのように条件付きで何故承認できないのか?なぜアメリカがヨーロッパの後にならなければいけないのか?何故できないのか?権限の問題か?であれば我々が新たに法案をつくれば、FDAは条件付きでAMX0035を承認してくれるか?と淡々と議長自ら話しているのです。

 

(質問攻めにあったFDA薬品評価担当ダイレクター)

 

■二部目は2時間10分:

こちらのパネルでは、ニューヨーク脳神経研究所の治験ダイレクターのアンドリュー医師(M.D.)、ハンチントン病患者のカーラさん、マサチューセッツジェネラル病院、ハーバード大学脳神経学教授のメリットセコヴィッチ医師(M.D.)、バイオロジーイノベーション協会のイーシャム氏、介護職のカーラさん、最後に I AM ALS(NPO団体)のブライアン氏と奥様が、政府が何をすべきか、具体的に要望を訴えます。アンドリュー医師(M.D.)、セコヴィッチ医師(M.D.)、の証言は、治験の機会をもっと多くの患者に与えるべきだ、そのため政府の財源が不可欠だ、FDAは条件付き早期認可を認めるべきだ、とその正当性を専門家の立場から説明しています。感動的です。

 

(I AM ALS代表のブライアン氏と奥さんのアブレベアさん)


次の見せ場は(ビデオ開始8時間のところ)で、ALS患者でもあるブライアン氏は(殆どは奥様が喋っている)のポイントは、1.AMX0035 とNurown を認可させるよう政府からFDAに働きかけていただきたい。AMX0035、Nurown の治験結果は、ラジカットを承認した時と同じ成績を収めている、我々は数字も知っている。それなのになぜFDAは承認しないのか?とロジカルにうったえます。 2.多くの人が治験に参加できるよう、政府による財政支援をしてください。3.カナダとヨーロッパと同様にに条件付きでもいいのでALS 治療薬の早期認可をして下さい「我々は数万人のALS患者を代表してお願いしています。次の世代にこの問題を持ち越すのではなく、今すぐ解決できることです、我々は生きたいのです」。と素晴らしいスピーチをされています。それを受けて議長が涙をみせる場面もあります(8時間11分ころ)。

 

最後の見せ場はビデオの最後のエシュー議長からの話です。ビデオ開始9時間46分から49分頃、「あなたたちの努力は無駄にしない、この法案は絶対通すわ、期待してて」と優しく、ブライアン夫妻に語るのです。最後は議員全員が立ってブライアン夫妻に拍手をするのです。こちらも感動的です。

 

エシュー議長が言った通り、このコミッティーはその後法案をまとめ提出し、先月12月23日バイデン大統領がこの法案に署名し、ALS法(H.R 3537)が成立されたのです。まさに有言実行です。

 

 

政府(エネルギー・ 商業委員会)のウエブサイト:

 

 

以上です。