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生まれて初めて買ったビジネス書の著者と会う。このような経験をするとは思ってもみませんでした。すごく嬉しかったのですが、しかし困ったこともありました。


当時の私は仕事で着れるようなスーツや靴を持っていなかったのです。
 

スーツ自体は一応持ってはいましたが、それは専門学校の入学式用に買った安物のスーツで、型崩れしてクタクタで、袖のボタンや裾も解れていました。
 

革靴にいたっては高校時代の通学で使っていたもので、踵はすり減り、つま先はやぶれ、左足の小指が外から見えている、といったひどい有様でした。

 

なぜそんなボロボロの靴を捨てずにとっておいたのか、自分でも不思議なくらいです。
 

当時の私は名刺も持っていなかったので、会社にお願いしてつくってもらい、名刺入れも一〇〇均で買いました。
 

職場以外の人と会うことそのものが初めての経験だったので、糸藤さんとお会いする前々日くらいになって、やっと自分が名刺交換のやり方すら知らないことに気がつきました。

 

そのときは焦って大急ぎで近所の本屋に走り、ビジネスマナーの本を二冊買って必死に読み込みました。
 

糸藤さんとはたしか八月中旬頃に、大阪駅前のホテルのラウンジでお会いしました。実際にお会いする糸藤さんは大変穏やかな表情で、ゆったりとお話をされる方でした。

 

お会いした当時の年齢は、確か糸藤さんが七一歳で私が二六歳だったと思います。
 

待ち合わせ場所で初めてお会いしたときなんかは、私はとても緊張してしまい、準備した名刺入れをスーツのどのポケットに入れたのかを忘れ、ご本人を前にしてバタバタと慌てながらスーツをまさぐり名刺入れを取り出す始末でした。
 

人生初の名刺交換だった私は、相手より先に名刺を差し出さなければ失礼にあたると思い、たいへん焦っていたのです。
 

よほど焦っていたのが伝わったのでしょうか、そんな私を見ていた糸藤さんが優しく穏やかな口調で、

 

「延堂さん、名刺交換というものは遅く出したから失礼だとか、そんなことはありませんよ。お互いが相手より先に出そうとすれば、名刺の出し合い、競い合いのようになってしまいますからね。遅れて出してもいいんですよ。もし名刺を出すのが遅れてしまったら、そのときは『遅れてすみません』と言葉を添えて、焦らず出せばいいのです」

 

と、笑顔で仰ってくれたのです。
 

まさか開口一番、糸藤さんにビジネスマナーを教えて頂くことになるとは。

 

今でこそ笑い話として話せますが、その時は自分のあまりの非常識ぶりに、本当にガックリうな垂れました。
 

そんな名刺交換のあと、二人でホテルのラウンジに行き、コーヒーを飲みながら二時間ほどいろいろとお話をさせて頂きしました。
 

 

成長哲学講話集3巻
『本当に尊いものは、実践からしか得られない』
35~37ページより

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