カエル 芥川龍之介の『南京の基督』は95年に映画化されているので、すでに内容を知っている方も多いかと思います。ただ、この日本・香港合作の映画は『南京の基督』をベースとしつつも、晩年の不気味な作品『歯車』の要素も盛り込まれていて、原作とは内容が異なっています。

 原作のあらすじ(ネタバレ注意!!)は次のような感じです。

 舞台は中国の南京です。「梅毒」にかかってしまった娼婦のお話でございます。この少女の名前は金花といって、家がそりゃあもう貧しくて、生きていくために、病気の父親を養うために、仕方なく娼婦の仕事をしています。娼婦の仕事をしているうちに「梅毒」になっちゃったんですガーン


「はあぁ、ホンマ憂鬱よねえぇ」と思っていたあるとき、金花のもとを訪れた紳士的なお客さんが梅毒治癒の奇跡を与えてくれますニコニコ

金花はこのお客さんをイエス・キリスト様に違いないと信じます。しかし、現実にはこの客は単なる無頼の混血児で、金花が寝ている間に買春の料金も支払わずに「トンヅラ」こいたのでした。そして、この客は金花からうつされた梅毒がもとで発狂死してしまうという皮肉な物語です。もちろん、金花は本当のことは知りません。

この小説で芥川龍之介が主張したかったのは、現実の世界では「ミラクル(奇跡)」は決して起きないということではないでしょうか。


金花がイエス・キリストの再来と信じているのは料金を払わないで逃げた単なる混血児です。また、金花は梅毒が完治したと思っていますが、自然治癒はありえません。梅毒が進行中でもステージが上がっていく間に外面的な症状が間歇的に収まることがあるので、それに該当しているのだと思います。つまり、残酷ではありますが、いつか金花自身も梅毒の末期症状が出て、ミラクルなんてなかったと気づくことになるのです。

 

ちなみに、この小説の舞台に選ばれた南京の「秦淮」は、明や清の時代、日本の吉原のような一大遊郭街になっていました。現在は南京の一大観光地になっています。



BRICs経済研究所 代表 門倉貴史