ひらめき電球 BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)では、都市部を中心に購買力のある中産階級が多数台頭していて、一部の高所得層は先進諸国並みの豊な生活を享受するようになりました。




経済発展に伴う人々の生活水準の向上は、食生活にも変化をもたらします。実際、各国の都市部では、従来の穀物・野菜中心の食生活に代わって牛肉など肉類中心の食生活が浸透しつつあるのです。また、甘味需要も高まっており、各国でチョコレートやクッキーなど菓子類の販売額が急伸しています。




 「豊かさ」を享受する過程で食生活が改善していくことは望ましいといえますが、その一方で、日本をはじめとする先進国がこれまで経験してきたように、飽食を背景とする様々な問題も表面化し始めています。



すなわち、BRICs域内では、カロリーの高い欧米風の食生活が急激に浸透したことから、運動不足や過剰なカロリーの摂取による肥満が増加しつつあります。さらに、肥満の増加などに伴い糖尿病や関連の病にも急増の兆しが見え始めています



 糖尿病は、すい臓で作り出されるホルモン「インシュリン」の分泌不足やその働きが低下することで、血液中のブドウ糖濃度が異常に高くなってしまう病気です。体内で分解できなくなったブドウ糖が尿で排出されることから、この病名がつけられました。糖尿病は放置しておくと、網膜症による失明や動脈硬化、腎炎など様々な合併症を引き起こします。



糖尿病の原因は、高カロリーの栄養摂取による肥満、運動不足、ストレスなどであり、これは都市化の進展と密接なつながりを持ちます。



また、糖尿病は加齢に伴い発症する確率が高くなることが知られています。年をとると、インシュリンを分泌するすい臓の機能が低下するためです。

 

世界116ヶ国のデータをもとに、糖尿病患者数の人口比が①都市化の進展と②高齢化の進展によってどれだけ押し上げられるかを試算したところ、都市部の人口比率が1ポイント上昇することによって糖尿病患者数の人口比は0.023ポイント押し上げられ、また、65歳以上の人口比率が1ポイント上昇することによって、糖尿病患者数の人口比は0.161ポイント押し上げられることになります




このような因果関係をもとに、BRICsとG7について糖尿病患者数の将来予測を行ったところ、これから都市化が進み、高齢化が進展してくるBRICsでは、糖尿病の限界的な増加スピードが加速していくことが分かりました。BRICsのなかでは、中国で糖尿病患者の増加テンポが最も速くなります。


BRICsの糖尿病患者数は、00年実績の6159万人から2030年には1億2889万人へと、30年間で2.1倍の規模に拡大することになります



一方、すでに都市化が進み、高齢化社会を迎えたG7では、将来の糖尿病患者数の限界的な増加スピードは小幅なものとなります。糖尿病患者数は、00年実績の3683万人から2030年には5422万人へと、30年間で1.5倍程度の拡大にとどまる見込みです。




BRICsで糖尿病の患者が増加すれば、それに伴い治療コスト負担もかさんでいきます。いくつかの前提をおいて試算すると、購買力平価(PPP)で評価したBRICsの糖尿病医療費は、00年時点の92.5億ドルから2030年には191.6億ドルまで拡大する見込みです。また、通院をしていない潜在的な患者がすべて病院で治療を受けることを前提とすれば、BRICsの糖尿病医療費は、00年時点の276.4億ドルから2030年には最大で572.4億ドルまで拡大することになります。


糖尿病を蔓延させないためには、個人レベルで各種の予防策を行うことが重要です。BRICs各国の人々が、糖尿病に関する知識を蓄え、食生活においてカロリーを過剰に摂取しないよう注意したり、適度に身体を動かすなど、糖尿病に対して十分な警戒をしていけば、患者数の広がりや関連医療費の急増を未然に防ぐこともできるでしょう。




BRICs経済研究所 代表 門倉貴史