夜の街 フランスのノーベル文学賞受賞作家アルベール・カミュ(1913年~1960年)は小説『異邦人』の作者としてとても有名ですが、劇作家としても知られていて、『誤解』『カリギュラ』と並ぶ彼の代表的な戯曲のひとつです。


『誤解』のあらすじはこんな感じです(ネタばれになるので、これから読もうと思ってらっしゃる場合にはご注意くださいましシラー)。


ある寒村に、宿屋を経営する母と娘(マルタ)がおりました。


昔は、父と息子もいて貧しいながら4人家族で暮らしていたのですが、父親は死んでしまい、息子(ジャン)は暖かい地方へと旅立ちました。


寂れた寒村に残された貧しい母と娘は互いに励ましあってけなげに生きていきます。彼女たちは、たくさんのお金を貯めて、寒くて暗いこの地方を抜け出し、南国に旅立つことを夢見ています。


やがて、母と子はお金を貯めるために、それはそれは恐ろしい犯罪に手を染めるようになります。どんな凶悪犯罪かといえば、1人旅で自分たちの宿屋を訪れた金持ちを殺害して、金品を奪うというものです。

 

 

そうした中、20年ぶりに息子(ジャン)が母と妹に会うために故郷に戻ってきます。人生の成功者となった彼は妻を引き連れて、寒村で暮らす母と妹を幸福にするために戻ってきたのです。


ジャンは、母と妹をびっくりさせるため、妻を別のホテルに残し、一人で母子が経営する宿屋を訪れます。しかしながら、母も娘も金持ちに見えるその旅人が自分たちの家族であることにはまったく気づきません。


そして、母親とマルタはいつもどおりに、この旅人から金品を奪うための仕事に取り掛かるのでした・・・。

 こ・わ・い・・・叫び叫び叫び叫び



 実は『誤解』の雛形は、すでに小説『異邦人』の中に出てきています。主人公のムルソーが新聞の三面記事で『誤解』と同じ内容の事件を読むというくだりです。つまり、カミュの中では『異邦人』を執筆していたときからすでに『誤解』の構想があったということです。


カミュはその作品においても、また日常生活においても「不条理」について探求していました。


カミュのいう「不条理」とは、何の意味なく、希望も見出すことができないような、人生の非合理な状況のことです。カミュは、ヒューマンがこの世の中に生きている限り、「不条理」はどうしても避けられないと考えていました。長い人生の中では理屈が通らないような出来事が多々発生するということです。

『誤解』は、「不条理」というものが持つ悲劇性を象徴する戯曲といえるでしょう。



BRICs経済研究所 代表 門倉貴史