やや欠け月 こんばんは、門倉と申します。



今日は「小説の神様」と言われて、独特の文体を持つ志賀直哉の短編『クローディアスの日記』を紹介させていただきます。


みなさん、シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『ハムレット』はご存知ですよね?



ハムレットは、デンマークの王子でございます。デンマーク王だった父が急死して、父の弟で、ハムレットの叔父にあたるクローディアスが新しい国王に就任します。また、クローディアスは王妃(兄の妻)と再婚もします。

 

 


ある日の夜、ハムレットは、父の亡霊から、(王位と妻を奪うために)クローディアスが父を毒殺したという衝撃の事実を聞きます。ハムレットはメラメラ復讐心メラメラに燃え、クローディアスを討ち、復讐を遂げるというストーリーです。

 



しかし、ハムレットは、クローディアスが父を毒殺したという客観的な証拠は何もつかんでいませんシラー。ハムレットが「亡霊」というあいまいな存在から聞いただけです。最悪、すべては自分の幻覚にすぎなかったという可能性もあります。


しかも、この戯曲はハムレットの視点・目線で描かれているので、読者はどうしてもハムレットに感情移入をしてしまい、いかにもクローディアスが真犯人のように見えます。

 


もしハムレット以外の人物の視点に立てば、同じ内容を扱っても、別の解釈が成り立つかもしれません。


それを実際に示したのが志賀直哉の『クローディアスの日記』なのです。『クローディアスの日記』では、クローディアスが兄(ハムレットの父王)を殺害した犯人ではなかったという前提に立って、クローディアス目線(日記形式)で書かれた作品です。



ここでは、ハムレットが次第に狂気にとりつかれていくというストーリーになっています(シェイクスピア作品ではハムレットはクローディアスを油断させるために狂気を装うという設定になっています)。

 日記の中でクローディアスがハムレットに対する怒りを爆発させるシーンがありますが、ここが全体の核心になっています。



「・・・・・乃公(オレ)が何時貴様の父を毒殺した? 誰がそれを見た? 見た者は誰だ? 一人でもそういう人間があるか? 一体貴様の頭は何からそんな考を得た? 貴様はそれを聞いたのか? 知ったのか? 想像したのか? 貴様程に安直なドラマティストは世界中にない。」



同じ事柄を見ていても、どの角度・視点から見るかによって、さまざまな解釈が成り立つんですね得意げ



BRICs経済研究所 代表 門倉貴史