研修医1年目1ヶ月目は呼吸器内科にいた。
部長先生はアラフィフの女性の医師。
怖かった。
初カンファの直前に直属の上司が、担当患者さんの説明を仕込んでくれた。
それを詰め込み、犬のように一言一句必死で再現した。
カンファの途中で、部長先生が入ってきた。今まで会議だったよう。
腕を組んで、白衣をくゆらせて、肩を揺らし脚からスッと前に歩く。気だるげに。
ほんとにスケバン刑事みたいに登場した。
ビックリした。
東日本大震災の時もその病院にいたけど、地震発生時よりはるかに怯えた。(被災者の方、申し訳ありません。)
私は必死に説明を続けた。胸部X線のスライドをさして「右中葉にスリガラス状陰影があり。。」
「スリガラス状陰影!? どこ? 区域は?」
「いや、これは、ス、スリ、リュ、粒状影が」
(本当は見えない。見えると思えば見える。区域は空間把握能力がないので出てこない)
もう自分は、マルを三角といっている。なのにマルマルだから数珠になりました的なこじつけをする。支離滅裂。
。。やぶれかぶれで「ここにGGOが (アドリブ)」
「それは肺血管影(ピシャリ)」
それがバシバシ続いた。頭がクラクラした。
カンファが終わって、私は師長さんしか座っちゃいけない机で泣いた。自分が泣いていることも気づかないほど必死だった。
その後「私が言うと強すぎるみたいだから」と通達があったらしく、その一つ下の先生がカンファの相手をしてくれるようになった。
本当は優しい人だった。
でもその人が怖いあまりに、私はその先生が徘徊した場所は匂いで分かるようになった。
近くにいる時は危機感が教えてくれた。 そして当たるんだこれが!ほんとにばったり遭遇する。
その人は、噂によれば婚約相手に裏切られて結婚せずにいた。一時期ワーカホリックのようになったという。
そこから回復した人だった。(それでも過重労働気味だと思うけど)
でも男ばかりの大きな会議の席でよく、ひとり結核感染の危険性を強弁し「仕事は私の子供ですから」と付け加える。
それが彼女の傷の大きさを物語っていた。
だって周りの男ども、どうしてそんな発言聞く意味があるだろう?
私が精神科に通っていることを知って「人間は弱い動物なんです。」「人間はとても弱い動物なんです。」となんども言った。
患者さんには、別人のように優しい人だった。
↓このニュースを見て、この方のガッツは凄いと思う。
だけども、彼女の言葉を借りて
自分は「医師」ではなく「人間」でもなく「動物」にしちゃえばいいのに。
「強くて美しい」じゃなくて「弱くて美しい」にしちゃダメかな。
私は自信がなくて、評価面接で「(できることは)危ないときに、誰か助けて-と上の先生を呼ぶ事しかできません」と答えた。「それが出来れば良いです」と言われて微妙な気持ちになった。そんな人材だった。(褒めるのそこしかない)
今もあんまり変わらないじゃないか。。。だから駄目なんだけど。
でも強くは生きられないみたいだ。
ただの生き物だし。