「経営戦略考」

食事というのは、量が多過ぎても少な過ぎてもいけませんね。安い
からと言って、スーパーでついつい買いすぎて、結局、処分するは
めになることもある。

  === 「スモールポーション」メニュー  ===

情報源:日本経済新聞 2005.03.08【35面

 「帯に短しタスキに長し」という言葉がある。商品やサービスを
購入する時、しばしばそのような感覚になる。どうにも中途半端で
困るわけだ。

 統計数字を解釈する場合、平均値に騙されてはいけないと、よく
言われる。確かに、帯とタスキを足して2で割ったら、誰にとって
も満足のいかないシロモノになってしまう。

 そのように、誰に対してもそこそこの満足を提供しようと、「足
して2で割る」ことをして失敗するケースは、結構、よくみられる
ようだ。

 とは言え、どの程度が「適量」なのか、その判断が難しい。結局
は「量」に対するニーズに合わせ、顧客にとっての選択肢を増やす
しかないのかも知れない。

 あるいは、いっそのこと、片側に寄ってしまってはどうだろうか。
そんなことを思わせてくれる記事が、8日付けの日本経済新聞に掲
載されている。

 「ファミリーレストランや牛丼チェーンなどの外食店が相次ぎ、
通常より量の少ない『スモールポーション』メニューに取り組んで
いる」という。

 その名のとおり、量が少ないメニューのことだ。ダイエットや健
康志向の人たち向けだろうか。私のような大食漢からみれば、正直
言って、あまり関係のない話だと思ったのだが、どうやらそうでも
なさそうだ。


  === サイズダウンで市場を拡大  ===



 「スモールポーション」メニューはそもそも、食の細くなった中
高年向けに開発されたものだという。人口構成比の高くなる彼らを
取り込もうというわけだ。

 とは言え、実際の客は、彼らばかりではない。「カロリーを気に
する女性」はもちろんのこと、「大人向けメニューを食べたい子供」
もいる。そしてさらに、「一品では物足りない男性」までいる。

 「スモールポーション」=「小食」というわけではないのだ。こ
のメニューが出来たおかげで、今までの分量が多過ぎると感じる客
と、少な過ぎると感じた客の両方を取り込むことになった。

 つまり、分量を変えただけで、一挙に市場を拡大させることがで
きたわけだ。逆に言うと、顧客は今まで、「帯に短しタスキに長し」
の状況を無理やり押し付けられていたわけだ。

 「大は小を兼ねる」という言葉もあるが、このケースには当ては
まらないようだ。サイズを小さくすることが顧客の選択肢を増やし、
それが市場を拡大した。

 同様のケースは、自動車にも当てはまりそうだ。軽自動車は、お
金がない人にとって何とか買える最初の一台だが、同時に、セカン
ドカーとしての需要もある。

 サイズや販売単位を変更するのは、商品開発の一つの着眼点とし
て比較的ポピュラーな手法だ。そしてその方向性は、スモール化が
無難なようだ。


   今日の教訓


あなたの企業の扱う商品のサイズやスペックを変えることで、どの
ような市場を取り込むことができるか、考えてみよう。「帯に短し
タスキに長し」の状況から、顧客を救い出そう。

  === 開栓日を記入できるジャム === 


情報源:日経産業新聞 2005.03.17 18面

 今年は花粉症が猛威を振るうという予測が、早くからなされてい
た。もう既にそのシーズンに入っている。私は長年の花粉症持ちだ
が、意外と調子が良いので驚いている。

 多少、目がかゆくなる感じはあるが、毎日、薬を飲まなくてはな
らないということはない。例年と比べて、何が違うのか考えてみた
ところ、一つだけ思い当たることがあった。

 それは、昨年の終わり頃からカプセル入りの「にんにく卵黄」を
飲み出したことだ。この手のものは、飲み続けなくてはいけないの
がネックだったのだが、不思議と続いている。

 元々、ニンニクも卵も好物なので、飲むことが苦にならない。実
際、カプセルを噛むとおいしい。また、毎月一袋ずつ送ってくれる
システムも、継続のために役立っている。

 「にんにく卵黄」が花粉症に効いたのかどうか、定かなことはわ
からない。だが、気に入っていることは確かだ。定量の1日2粒を
超えて飲んでしまうこともある。

 なくなり具合が気になるところだが、袋に「開封年月日」を記入
する欄が設けられているので、次に送られてくるまでの日数を考え
て、飲むペースを調節したりしている。

 年月日の記入欄は、ちょっとした気遣いで嬉しく思う。17日付け
の日経産業新聞には、キューピーの果実ジャムのパッケージに開栓
日の記入欄が設けられたという記事が掲載されている。「にんにく
卵黄」と同じだと気づき、興味を引かれた。



   消費のペースをコントロールする



 キューピーの果実ジャムは、砂糖や保存料を使っていないので、
その分、保存性が落ちる。開栓してから2週間以内に食べる必要が
あるのだそうだ。

 開栓日を記入するのは、そうすることで「品質が劣化したジャム
を食べてしまう」ことを予防できるからだ。「食の安全」への関心
が高まっている昨今だ。メーカーの気遣いとしては評価できる。

 品質の保持に対する責任は、消費者の食卓に届けられるまででは
なく、開栓後に至るまで果たそうというわけだ。そのために、開栓
日記入の手間について、消費者に協力を求めても、許されるだろう。

 その点では、私の「にんにく卵黄」の開封年月日活用法とは少し
異なる。とは言え、よくよく考えてみると、たとえそれが品質保持
の目的であっても、消費のペースメイクという点では、同じ効果を
もたらすのではないだろうか。

 つまり、ジャムの品質保持期限が開栓後2週間だとすれば、2週
間で食べ切ろうとするだろう。「にんにく卵黄」の残り具合で飲む
ペースを調節するのと同じだ。

 2週間の期限つきで食べ切らせることに成功すれば、冷蔵庫内の
「在庫回転率」を、消費者任せにせず、メーカーがある程度コント
ロールしたことになる。

 うがった見方をすれば、開栓後2週間以内という期限設定は、
「メーカーの思惑」の反映と考えられるが、品質保持という点で消
費者メリットもあるのなら、Win-Win で問題はない。

 ジャムに限らないが、消耗品の販売にあたっては、思いのほか客
先在庫での消費が進まず、販売の思惑がはずれてしまうことがある。
消費を促進する、あるいは少なくとも消費のサイクルをコントロー
ルできるとすれば、実にうまい仕組みだということになる。

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  今日の教訓
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あなたの企業が顧客に販売する消耗品は、思惑とおりに客先で消費
されているだろうか。もしそうでないとすれば、消費のペースをコ
ントロールする仕組みをつくってみるとよいだろう。