ようやく通知が来た。「要介護1」とのことだ。


 最近、症状が急速に進んでいる気がする。そうだよ、部屋でテレビを観る。家の周りの落ち葉を掃いて袋にまとめる。それ以外、何もしないのだから、認知症によくない典型的な例だ。

 

 若い時からお友だちを作るわけでもない。趣味もない。義母(妻)が亡くなってそろそろ20年だ。以前は日用品やちょっとした食品のお買い物のために、自らスーパーに行っていた義父だが、ここのところは一切しない。

 

 夏の日の夜、

「beachan、おコメくれる?」

と鍋を持って我が家にやってきた。その頃から

「あれあれ?」

が始まった。それ以前にもあったのかもしれないが、近くに住み、食事さえ届ければ生活は回っていたので、私たちの気づきが遅かったのかもしれない。毎日、顔は合わせるし、夫が時々旅行にも連れて行っていた。

 

 足腰は全く問題ない。背筋もシャキッと伸びている。自転車なんて朝飯前……懐かしい言葉だ。

 

 ケアマネさんが決まり、相談の結果、お風呂の介助とお掃除をお願いすることにした。1人でお風呂に入ることはできるのだが、入ろうとしなくなってしまったからだ。できればお買い物もお願いしたいが、総菜パン、味付きのパンなど、手軽に食べられる物を買い置きしてしまうと、どんどん食べてしまう。そもそも日持ちの問題もあり、主に夫が、冷凍食品や飲み物などを2~3日ごとに買いに行く。私も買い物の際に、良かれと思うものを購入する。

 

 困るのは主に2つ。お薬管理は医療行為となり、ヘルパーさんにお願いができないから、現状通り夫が出社の際に立ち寄り、その日のお薬を毎日渡しに行く予定だ。


 もう1つは夜のいきなりの電話だ。直接我が家に来ることもある。23:00ころにインターフォンが鳴るからあせる。

「時計がおかしい」

「知らない人が勝手に入ってくる」

その都度、夫が出かける。回数はそれほど多くはないが、こちらもヘルパーさんには頼めない。

 

 もうこれは施設に入った方がいいのか。もしくは同居。夫も結構なストレスを抱え、お酒の量が増えた気がする。

「オヤジがオレのことを認識できなくなったら、施設に入ってもらう。オヤジにもそう伝えてある」

 

 「あんちゃん」

「にいちゃん」

夫のことを義父はそう呼ぶ。夫はもちろん義父の兄ではないが、第1子長男ってことで義父は以前からこんな風に呼んだりしていた。名前の時もあったが、今ではすっかりこれだ。私は

「もしかしたら、息子の名前、わからなくなってるのでは?」

なんて思う時もある。

 

 私が何か提案をすると夫は

「いいよ!」

と否定する。

「オレがやるからいいよ!」

にもなる。時々は強い口調で返ってくる。夫が最後に決まって言う言葉が

「死ぬ権利が欲しい」

だ。もちろん、実父を殺めるなんて気は毛頭ない。それは、自分が認知症になったら、子どもに迷惑はかけたくないし、そこまでして自分は生きていたくないということだと。


 私がお惣菜などを届けたり、シーツの交換などをしたときなど、帰り際に玄関まで出てきて義父は胸の辺りで両手を合わせ

「ありがとう」

「迷惑かけます」

「悪いなぁ……」

と、深々とお辞儀をする。イヤイヤ、私は神や仏じゃないんですよぉ。


 一方不穏な時は

「オレはなんにもわからなくなっちゃったんだよ」

「生きてたってしょうがないや!」

吐き捨てるように言う。

 

 義父の様子を見ていると、切なくなる。元気に生きるって難しい。