その日、私は、JR駅からバスに乗った。私の降りるバス停は終点から3つ手前位で、30分ほどの時間となる。バスが走り出した直後、いきなり運転手さんのアナウンスがあった。
「誠に申し訳ございませんが、このバスは、ただ今降車ボタンが故障しております。降りるバス停が近づきましたらお早めに口頭にてお知らせください」
いや~、これこれ、私が最もワクワクする場面。こんなことってあります?私はもちろん初めてです。
この日、出発した時には30人くらいが乗っていた。学校を卒業した今となっては、これだけの集団における人々の言動を見聞きできることなんて、無いもの。それぞれ、どんな風にどんな言葉で運転手さんに伝えるのだろう?「ヤンキー風の見た目がチャラいお兄ちゃん」が、実はすっごく親切にしてくれた、っていう高齢おばあちゃんの新聞投稿、あるある話だから、ここでそんなベタな話はしたくない……。が、結果は私のワクワクに反して思いっきり普通の話。
いろんな人がいました。スーツ姿の壮年男性は、
「次!」
と大きな声で一言。せめて「降ります」くらい加えてください。真面目そ~な制服姿の男子高校生は
「次降ります。お願いします」
となんとも丁寧だった。大きい声の人もいれば、小さい声の人も。運転手さんに聞こえなかったのか、バスが停留所を通り過ぎようとしたところで、おばあちゃんの代わりに大きな声で伝えたのは体育会系女子高校生だった。私はなんと言おうかさんざん悩んだが、同じ停留所で降りる高齢男性に普通に
「降ります」
と先を越されてしまった。笑いをとろうなんて考えた私がばかだった。期待に反して面白いことは何も起こらなかった。